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第55話 サプライズがふたり分
夕方、俺は拓実のマンションに向かった。
手には指輪の入った小さな袋を握りしめている。
インターホンを押すと、すぐに拓実が出てきた。
「遥? どうしたの、今日は連絡なかったけど」
「あ、うん……ちょっと話したいことがあって」
そう俺が言うと、拓実が少し心配そうな顔をする。
「……何かあった?」
「いや、悪い話じゃないから」
俺が笑うと、拓実が安心したように頷いた。
「入って」
部屋に入ると、いつもの拓実の部屋だった。少し散らかっていて、でもそれが落ち着く。
「で、話って?」
拓実がソファーに座る。俺も隣に座った。
「あの……さ」
俺は袋を握りしめる。でも、なかなか言葉が出てこない。
「どうしたんだよ、らしくないな」
拓実が不思議そうに俺を見る。
「……ちょっと待って。まだ、ちゃんと言葉にできない」
伝えたい気持ちはあるのに、声に出すと震えてしまいそうだ。
拓実は、少し間を置いて頷いた。
「……分かった。じゃあ、俺から先に話してもいいか?」
「あ、うん」
「待ってて、すぐ戻るから」
拓実はそう言うと、静かに寝室へ向かった。
俺はその背中を見送りながら、心臓がドキドキするのを感じた。
手の中の袋の重さが、気持ちの重さと混ざってずっしりと響く。
数秒後、拓実が戻ってきた。
手には小さな箱を持っていて、照明の光に少し反射していた。
「何それ?」
「あー……ちょっと前に買ってたやつ」
拓実が少し照れたように笑う。
「何?」
「……指輪」
俺の手が止まった。
「は?」
「だから、指輪。お前の分と俺の分」
拓実が箱を開ける。中には、高級そうなゴールドのペアリングが入っていた。
「ちょっと待て、それ……」
「ゴールドのペアリング。お前、プラチナがいいって言ってたけど、やっぱりゴールドのほうが似合うと思って」
拓実が楽しそうに言う。
「いや、でも……」
俺は自分の持ってきた袋を見た。中には、プラチナのリング。
「どうしたの?」
拓実が俺の様子に気づいて首を傾げる。
「……実は、俺も」
俺が袋を取り出すと、拓実が目を丸くした。
「それ……」
「指輪。お前の分と、俺の分」
拓実がしばらく固まった後、プッと吹き出した。
「マジで?」
「笑うなよ……」
俺も思わず笑ってしまう。
「俺たち、何やってんだろうな」
拓実が楽しそうに笑う。
「お前も結婚する気になったの?」
「……うん」
俺が頷くと、拓実の笑顔が一気に明るくなった。
「マジで? いつから?」
「一週間くらい前」
「なんで言わなかったんだよ」
「サプライズにしようと思って」
俺が照れながら言うと、拓実がますます笑う。
「俺もだよ。指輪はサプライズにしようと思ってた」
「……被ったな」
「完全に」
二人で笑った。その笑い声が、部屋にふわっと響く。
「で、どっちの指輪にする?」
拓実が二つの箱を並べる。プラチナとゴールド。
「……じゃんけんで決める?」
「それもどうかと思うけど」
拓実が苦笑する。
「でも、これはこれで記念になるな」
「そうだな」
俺も笑う。
「じゃあ、両方もらっとく?」
「両方?」
「プラチナは普段用、ゴールドは特別な日用」
拓実が提案する。
「……贅沢すぎない?」
「いいじゃん。記念だし」
拓実が楽しそうに言う。その笑顔が、たまらなく愛おしかった。
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