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第56話 プラチナとゴールドの約束
指輪の話が落ち着いて、俺たちはソファーに座り直した。
「で、遥」
拓実が真剣な顔になる。
「もう一回、ちゃんと聞きたいんだけど」
「……何?」
俺も緊張する。
「お前、本当に俺と結婚してくれるの?」
その言葉に、俺は深呼吸をした。
「……うん」
小さく頷く。
「本当に?」
「本当に」
俺がまっすぐ拓実を見ると、拓実の目が少し潤んだ。
「……良かった」
拓実が俺の手を握る。その手が震えていた。
「ずっと、不安だったんだ。お前が本当に俺を選んでくれるのかって」
「バカ。お前以外選ぶわけないだろ」
俺が言うと、拓実が嬉しそうに笑った。
「じゃあ、ちゃんと言わせて」
拓実が俺の前に正座する。
「え、ちょっと……」
「遥」
拓実が真剣な顔で俺を見つめる。
「俺と、結婚してください」
その言葉に、胸が熱くなった。
「……うん」
俺が頷くと、拓実がパッと笑顔になった。
「ありがとう」
拓実が俺を抱きしめる。その温もりが、心地よくて。
「こちらこそ……ありがとう」
俺も拓実を抱きしめ返した。
「指輪、つけてもいい?」
拓実が聞いてくる。
「……うん」
拓実がプラチナのリングを取り出して、俺の薬指に滑らせた。少しきつめだけど、ちょうどいい。
「似合う」
拓実が嬉しそうに言う。
「お前のも」
俺が拓実の手を取って、もう一つのリングを薬指にはめる。拓実の手は大きくて、でも指は意外と細い。
「……これで、俺たちも婚約者だな」
拓実が照れたように笑う。
「婚約者、か」
俺も笑う。その言葉が、まだ不思議で。
「でも、嬉しいな」
拓実が俺の頭を撫でる。
「お前と、ちゃんと家族になれるんだ」
その言葉に、胸がいっぱいになった。
家族。俺たちは、これから家族になる。
「……拓実」
「ん?」
「幸せにしてくれよ」
俺が小さく呟くと、拓実が優しく笑った。
「任せろ。お前を、絶対幸せにする」
そして、拓実がそっと俺の唇に触れた。
優しいキス。
これから始まる、新しい人生の始まり。
俺たちは、静かに抱き合った。
*
婚約してから数日後。
拓実のマンションで、俺たちは結婚式について話し合っていた。
「で、式はどうする?」
拓実がノートパソコンを開きながら聞いてくる。
「やっぱ、式……やるの?」
「やらないの?」
拓実が不思議そうに俺を見る。
「いや、別に……俺たち二人だけでもいいかなって」
「それもいいけど、せっかくだし」
拓実が画面を見せてくる。そこには、あらゆるウェディング会場の写真が並んでいた。
「でも、お前が嫌なら二人だけでもいいよ」
「嫌じゃないけど……」
俺は言葉を探す。
「誰を呼べばいいのか、分かんなくて」
その言葉に、拓実が少し困ったような顔をした。
「……そっか」
拓実が俺の手を握る。
「じゃあ、俺の家族と、滝沢とか? 他に呼びたい人いる?」
「……仕事関係の人、何人か」
「いいじゃん。それで十分だよ」
拓実が優しく言う。
「小さくても、ちゃんとした式にしようぜ」
「……うん」
俺が頷くと、拓実が嬉しそうに笑った。
「じゃあ、場所決めようか。俺はニューヨークがいいと思うんだけど」
「ニューヨーク?」
「うん。両親も喜ぶと思う」
拓実が画面をスクロールする。
「こことか、同性婚もOKなんだ」
画面には、荘厳なチャペルの内部が映っていた。ステンドグラスが美しい。
「……綺麗だな」
「だろ? ここで式挙げたら、絶対思い出に残るよ」
「でも、日程は?」
「秋とかいいんじゃないかな。ニューヨークの秋、めちゃくちゃ綺麗だから」
拓実が楽しそうに話す。その様子を見ていると、俺も少しずつ楽しみになってきた。
「秋……あと半年くらいか」
「うん。それまでに準備もできるし」
拓実が俺の肩を抱き寄せる。
「楽しみだな」
「……うん」
結婚式、か。
まだ実感は湧かないけれど、拓実と一緒なら大丈夫な気がした。
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