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第57話 婚約、両親も巻き込み中

「遥、来週末、空けといて」 ある日、拓実が唐突にそう言った。 「え、なんで?」 「両親に、正式に報告したいんだ」 拓実の声はいつもより少し真剣で、俺の胸に響く。 「……もう会ったじゃん」 「あのときは、まだ具体的な結婚の話まではできなかったから」 拓実がそっと俺の手を握る。その手の温かさに、胸がドキリと跳ねた。 「今度は、ちゃんと婚約者として紹介したいんだ」 その言葉に、心臓が一瞬止まったような感覚になる。 「……分かった」 俺が頷くと、拓実の顔がぱっと明るくなった。 「ありがとう。嬉しいな」 その笑顔に、俺も自然と笑みがこぼれた。 * 週末、俺たちは拓実の実家――ニューヨーク、マンハッタンの高層マンション――へ向かった。 飛行機の中、隣で窓の景色を見つめながらも、手のひらは少し汗ばんでいた。緊張で指先が震える。 「気楽にしてろって。大丈夫だから」 拓実が肩に軽く触れながら、にっこりと笑う。 「……俺、ちゃんと挨拶できるかな」 「できるよ。お前なら」 その声に少しだけ勇気が湧く。 「それに、両親も楽しみにしてるから」 拓実の言葉に、胸のドキドキが少しだけ静まった。 ニューヨークに到着すると、タクシーで高層マンションへ向かう。 最上階の扉を開けると、拓実のお母さんが柔らかい笑顔で迎えてくれた。 「拓実! 遥くん!」 「お久しぶりです」 俺が挨拶すると、お母さんが優しく笑った。 「もう、そんなに堅くならなくていいのよ。これからは家族なんだから」 その言葉に、胸が温かくなった。 「お父さんも待ってるわ。中に入って」 リビングに入ると、お父さんが俺たちを見て、穏やかに笑う。 「よく来たね」 「お邪魔します」 俺が頭を下げると、お父さんが俺の肩を叩いた。 「改めて、ようこそ。これからは家族だからな」 その言葉に、俺の目が熱くなった。 「……ありがとうございます」 「さあ、座って座って」 お母さんが嬉しそうに俺たちをソファーに座らせる。 「それで、二人とも。式の日取りは決まったの?」 お母さんが尋ねる。柔らかい声に、少し緊張していた俺の肩が軽くなる。 「秋を予定してる。十月くらいに」 拓実が答えると、お母さんは小さく笑い、顔を見合わせた。 「十月! ちょうどいいわね。ニューヨークも綺麗な時期だし」 「場所は?」 お父さんが笑顔で尋ねる。落ち着いた声に、少しだけ気が楽になる。 拓実がタブレットを見せながら説明し始めた。 「……このホテルかな。チャペルで挙式、そのままレセプション」 「なるほど、いいんじゃないかな」 お父さんがにこにこしながら頷く。 「ここなら安心して挙式できるし、思い出になりそうなんだ」 拓実が真剣に言うのを聞いて、俺も自然と頷いた。 「そうね……せっかくだから、良い場所で挙げたいわよね」 お母さんも静かに微笑む。 「遥くん、ドレスコードとかは大丈夫?」 「あ、はい……多分」 俺が答えると、お母さんは笑った。 「じゃあ、一緒にタキシード選びに行きましょう。拓実も」 「母さん、俺はもう持ってるから」 「ダメよ。結婚式用の新しいのじゃないと」 お母さんが譲らない。拓実が苦笑する。 「分かったよ……」 お父さんは少し考え込むように静かになり、低い声で問いかけた。 「遥くん、一つ聞いてもいいかな」 「はい」 「拓実のこと、幸せにしてくれるかい?」 俺はすぐに答えた。 「はい。必ず」 お母さんがほっと笑み、お父さんも頷いた。 拓実がそっと手を握る。その手の温かさに安心しながら、俺も心から笑った。

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