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第64話 指輪の輝きと一緒に

司式者が、俺に視線を向ける。 「Haru, do you take Takumi to be your lawfully wedded husband?」 (遥さん、あなたは拓実さんを法的な配偶者として迎えますか?) 一瞬、息が止まった。喉がからからだ。 声、出るかな。ちゃんと、言えるかな。 拓実がそっと俺の手を握る。その温もりに、少しだけ勇気が出た。 息を吸って――。 「I… I do」 (はい、誓います) 声が震えた。でも、ちゃんと言えた。 司式者が優しく微笑む。 「Now, please exchange your vows」 (では、お互いの誓いの言葉をどうぞ) 拓実がポケットから紙を取り出す。 でも――。すぐにそれをしまった。 拓実が俺をまっすぐ見つめる。その目が優しくて、真剣で。 「遥」 名前を呼ばれた瞬間、胸がドキッとした。 「俺は、お前と出会えて本当に幸せだ」 拓実の声がチャペルに響く。 「お前は俺に、“家族”って何かを教えてくれた」 ――家族。その言葉に、胸が熱くなる。 「これからずっと一緒にいたい。遥を守りたい。お前と笑いたい」 拓実の目が少し潤んでいる。 「遥、お前を絶対幸せにする。約束する」 ……そんなこと言われたら泣いちゃうじゃん。 胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。 次は俺の番だ。何を言おう。 紙、見たほうがいいかな。 でも――。 拓実が紙を見ないで言ったんだから、俺も。ちゃんと伝えたい。俺の気持ちをちゃんと。 「俺も……」 声が震える。 「拓実と出会えて幸せだよ」 拓実が優しく微笑む。それを見たら、涙が溢れそうになった。 「お前は俺に、勇気をくれた」 本当だ。拓実がいなかったら、俺はきっと何もできなかった。 「これからも、ずっとお前の隣で生きたい」 ずっと、そばにいたい。 「お前を支えて、笑い合っていたい」 「……ああ、一緒に生きていこうな」 拓実が小さく囁く。 「うん」 俺も頷いた。司式者が優しく微笑む。 「Now, please exchange rings」 (では、指輪を交換してください) 拓実が小箱を開く。中にはプラチナのリングが二つ。 拓実が俺の左手を取る。そして、ゆっくりと薬指にリングを滑らせた。 「これで、ちゃんと繋がったな」 「ああ」 俺も拓実の左手を取る。 少し震える手で、薬指にリングをはめる。 ――これで、俺たち本当に……。 司式者が厳かに宣言する。 「By the power vested in me by the State of New York, I now pronounce you married」 (ニューヨーク州の権限により、あなた方を夫婦と認めます) ――夫婦。その言葉が、胸に響く。 「You may kiss your husband」 (キスをどうぞ) 拓実が照れたように笑う。 「……していい?」 「今さら聞くなよ」 小さく笑いながら答えると、拓実もくすっと笑った。 拓実がそっと俺の頬に手を添える。その手が、少し震えてる。 顔が近づいてくる。――ドキドキする。 こんなに人がいる前でキスするなんて。 でも――。 唇が、触れ合った。 柔らかくて優しくて、温かくて。 ――幸せだ。 その瞬間、チャペル中から拍手が響いた。 たくさんの人が笑顔で拍手してくれている。 顔を離すと、拓実が嬉しそうに笑っていた。 「……結婚したな」 「うん」 俺も笑った。 涙が止まらなくて。でも、嬉しくて。 拓実がそっと俺の涙を拭ってくれた。 「泣くなよ」 「お前だって泣いてるじゃん」 「……バレた?」 二人で笑った。 「Congratulations」 (おめでとうございます) 俺たちは手を繋いで一礼した。 拍手が、また響く。 ――拓実と、結婚した。 その実感がじわじわと湧いてくる。 嬉しくて、幸せで。涙が止まらなかった。​​​​​​​​​​​​​​​​

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