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第65話 Forever Begins Here ―永遠はここから始まる―

式を終えて控室に戻ると、牧師が預けていた婚姻許可証を持ってきた。 「Please sign here as witnesses.(こちらに証人としてサインをお願いします)」 滝沢さんと潔さんが、丁寧にサインする。 潔さんがペンを置きながら、柔らかく笑った。 「拓実、遥くん……おめでとう。よかったわね」 滝沢さんも頷く。 「二人とも、本当にお似合いですよ」 「ありがとうございます」 俺が頭を下げると、拓実が潔さんの肩にそっと手を置いた。 「ばあちゃん、ありがとう」 「幸せになるのよ」 そして牧師が最後に署名を入れた。 「Congratulations. I’ll submit this to the city clerk.You should receive your marriage certificate soon.」 (おめでとうございます。こちらは市役所に提出します。正式な結婚証明書は後日届きますよ) 拓実が英語で礼を言う。 「Thank you so much.」 俺も頭を下げて、小声で言った。 「Thank you…」 牧師が出ていくと、拓実が俺の手を取った。 「これで、正式に夫婦だな」 「……ああ」 拓実が笑って、軽く額を合わせる。 「じゃ、次はハネムーンの話でもするか」 「え、もう? その前に写真撮ろってば!」 俺が慌てて言うと、拓実がふっと笑った。 「そうだったな。じゃあ――“夫婦初ショット”、撮るか」 そう言ってカメラを構える拓実の顔が、今までで一番幸せそうに見えた。 「なあ、遥」 「ん?」 「結婚して良かったな」 拓実がしみじみと言う。 「……うん」 俺も頷く。 「これからも、よろしくな」 「こちらこそ」 二人で笑った。指輪が、キラリと光る。 これが俺たちの新しい日常。 そして、これからもずっと続いていく幸せ。 ――その確かな温もりを胸に、俺たちはホテルのレセプション会場へ向かった。 「おめでとう!」 ゲストたちが次々と祝福してくれる。 「本当に素敵な式だったわ」 拓実のお母さんが、そっとハンカチで目元を拭った。 「母さん、また泣いてる」 拓実が苦笑する。 「だって……感動したんだもの」 お母さんが照れくさそうに笑う。 その隣で、お父さんが穏やかにグラスを掲げた。 「遥くん、拓実をよろしく頼むよ」 「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」 その穏やかな空気のまま、レセプションが始まった。 テーブルには、試食会で味わったのと同じ豪華な料理が並ぶ。 彩りも香りも、あのときよりずっと華やかに感じられた。 「美味しいな」 拓実が満足そうに言う。 「うん」 俺も頷きながら料理を味わった。 やがてスピーチの時間になり、拓実のお父さんが立ち上がる。 「みなさん、今日はお集まりいただき、ありがとうございます」 穏やかな声が会場に響いた。 「拓実は、小さい頃から真っ直ぐで、優しい子でした」 お父さんが、少し照れたように笑って息子を見る。 「そんな拓実が、遥くんという素晴らしいパートナーを見つけてくれて――親として、これほど嬉しいことはありません」 言葉の途中で、わずかに声が震える。 「二人とも、これからも幸せに」 お父さんがグラスを掲げ、会場の視線が一斉に集まる。 「乾杯!」 グラスの音と笑い声が重なり、温かな拍手が広がった。 * レセプションが一段落し、俺たちは少しだけ外に出た。 ホテルのテラスに出ると、ニューヨークの夜景が広がっていた。 煌めく光が、まるで祝福のように俺たちを包み込む。 「疲れた?」 拓実が優しく聞いてくる。 「……ちょっと」 正直に答えると、拓実がふっと笑った。 「俺も」 そう言って、拓実がそっと俺の肩を抱き寄せる。 スーツ越しに伝わる体温が、心地よくて落ち着く。 「でも、楽しかったな」 「うん」 俺も拓実の胸に軽く寄りかかった。 「ありがとな、遥」 「何が?」 「俺と結婚してくれて」 拓実が少し照れたように言う。 その顔を見て、胸の奥が温かくなった。 「……こちらこそ」 俺も小さく笑って答える。 「これから、よろしくな」 「うん。よろしく」 夜風が頬を撫でる。 遠くで街の明かりが瞬いて、指輪がその光を受けてキラリと輝いた。 「なあ、遥」 「ん?」 「幸せ?」 拓実の声が、少しだけ真剣だった。 「……うん」 俺が頷くと、拓実が安心したように笑った。 「良かった」 拓実がそっと俺にキスをする。 「これから、もっと幸せにするから」 「……期待してる」 俺も拓実にキスを返した。 そっと唇を離したその瞬間―― テラスのドアが開き、拓実のお母さんが顔を出す。 「二人とも、ケーキカットの時間よ」 「あ、もうそんな時間か」 拓実が時計を見る。 「行こうか」 「うん」 俺たちは手を繋いで、会場に戻った。 ケーキカットをして、ファーストバイトをして。 たくさんの人に祝福されて。 長い一日が、幸せに満ちていく。 【読者の皆さまへ】 次回でクライマックス――二人の幸せを一緒に見届けてください。

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