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第2話
新幹線を降りると、蒸し暑い空気が全身にまとわりついた。それに、ホームの乗降客の多さにもうんざりだ。
お盆の終盤でもあり、帰省の人たちも、また日常に戻ることを思い出してるのか、疲れと怠さが貼りついた顔は、能面のように無表情だ。それとは真逆に、大人が入りそうな位のスーツケースをゴロゴロと押しながら、陽気にしゃべっているインバウンドの客たち。
俺は、そのデカいスーツケースを避けながら新幹線の改札を抜けて、待ち合わせの場所に行った。
在来線の中央改札口を出ると、目の前に蝋燭の様な形をした京都タワーが見える。そこが、健吾との待ち合わせ場所だ。俺は辺りを見回したが、あのデカい健吾の姿が見当たらない。新幹線の到着時間は伝えているのに。まさか、地元で方向音痴を発動するはずもないし…健吾は、本人は認めないが間違いなく方向音痴だ。
俺は、バスやタクシー乗り場、地下街へ行く人たちから少し離れたところで連絡をしようと、スマホをポケットから取り出そうとした。
すると、後ろからいきなりヘッドロックをされた。
「おお、久しぶりやな唯斗」
健吾だ。懲りない奴だ。彼女と俺を間違えたくせに。
「もう、いきなりはやめろよ…彼女と間違えた前歴があるんだからさ」
俺は思わずスマホを落としそうになった。
去年のクリスマス前、俺は仕事帰りに街路樹のイルミネーションを元彼を思い出しながら見ていると、健吾が後ろから抱きついてきた。新手の痴漢かと思ったが、どうやら俺が被っていた白のニット帽のせいで、待ち合わせの彼女と間違えたようだった。後姿はよく似ていたらしい。それに、そもそも待ち合わせの場所も違っていた。その後でまた偶然出会うことになって、健吾の飾らない真っ直ぐな性格と、親しみやすさと少しついていけない関西弁に感化されたのか、俺は元彼とのことで心に蟠 っていたものを曝け出してしまった。
それから、健吾は俺がいる東京が気に入ったのか、たまに遊びにくるようになった。まぁ、俺というガイドが一緒だと、道に迷わない安心感があるからだろう。
そして、俺は初めて、健吾のいる関西にやって来た。健吾が住んでいるのは大阪なんだが、どうしても俺を京都に来させたかったようだ。
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