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第7話
料理最後の水菓子も食べ終わった。
こんな素敵な場所で、健吾と隣同士で座ってたくさん話しもできて、最高に美味しい料理をいただけて、来るのを迷ったけど、やっぱり京都に来てよかった。
ランチとはいえ、結構な支払いになるのに、いつも東京案内してもうてるからお返しや、って言ってくれた。
「本当にありがとう。最高だったよ」
「そうか?よかったわ。そう言うてもらったら来た甲斐があったちゅうことやな」
店を出た後、俺たちはすぐ近くの貴船神社に行った。両脇に灯籠がいくつもある石段を上がってお参りをした。そこは、いつだったか、日没に灯籠が灯ると幻想的な風景になるとSNSで見たことがあったところだった。
「健吾はさ、今どうしてるの?…引退したら、もうラグビーは終わり?」
俺は、少しドキドキしながら訊いてみた。もしかしたら触れてほしくないことかもしれない。
「いいや。選手を辞めたいうだけや。子供の頃からずっとやってきたラグビーやしな、そんな簡単に離れられへんわ。これからもずっとなんかの形でやっていくわ…昨シーズンはな、戦術分析ばっかりしとったんや、今シーズンは相手チームの模倣する役してチームと練習する予定や。これはな、俺やからできることなんやで」
ちょっと自慢気に健吾はサラリと言うけど、怪我の後、これまでかなりの葛藤があったんだろうなと思ってしまう。
「お前な、そんな憐れんだ顔すんな。俺は平気や」
俺の心の内を見透かされてしまった。
「ごめん。そういうつもりじゃないよ」
「自分の身体のことは、自分が一番ようわかんねんや…あのな、社会人の選手にもなったらな、国のトップ選手は別として、ある程度の選手の体はまぁ似たり寄ったりやねん。けどな頭脳とかメンタルとか、言うたらセンスやな、そこが違うから優劣がつくんや。俺な、調子ええ時はな、後ろに目あるんちゃうかって思うくらい、グランドにいるチームの奴らの動きがわかっててん…けど、怪我してからはその目も無くなったわ」
俺は思わず、健吾の後頭部を見てしまった。
「アホ。ホンマにあるか」
呆れた声でそう言った健吾は、俺に本日二回目のヘッドロックをした。
「お前…オモロいやっちゃな」
笑いながらの二回目は、その腕をなかなか緩めてくれない。
「もう…でも、健吾ならありそうだなって思った」
「俺は、バケモンか妖怪か」
「怪物だな」
ようやく腕を緩めると、怪物になれたらよかってんけどな、って健吾は言った。
「なぁ、折角バイクで来たし、ちょっと走ろか。この先の峠越したらな、大原に行けんねん」
健吾は気持ちを吹っ切るように、俺に笑顔を向けた。
「大原…?」
「大原三千院や。そこ行こ」
俺たちはバイクに戻った。貴船川を後にして、江文峠へとバイクを走らせた。
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