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第11話
俺たちはまた京都駅に戻ってきた。健吾のバイクは最初に利用した駐車場に停めた。
「今日やったら、まだ行けるやろ。京都タワー行こ。展望台から、五山がどこにあるか言うたるわ。まだ日、暮れてへんから見えるしな。明日の夜は、送り火の鑑賞で予約したもんしか入られへんねん」
「予約なんだ」
「その予約もな抽選らしいわ。おばあちゃんの小さい時はな、どこからでも送り火が見えたらしいわ。物干し台に上がったらよう見えてたんえ、ってよう言うとるわ」
健吾のおばあちゃん世代の人は、まさかこんなに建物が林立し、こんなにも海外の人が来るなんて想像すらしていなかっただろうな。
京都タワーの展望室に着くと、まぁまぁの人がいた。天気もよかったお陰で、全方位遠くまで見渡すことができた。健吾は遠くに見える山を指差して、右から順番に『大文字』『妙法』『船形』『左大文字』『鳥居形』と教えてくれた。明日、点火されるのもその順番らしい。
「最初にな、小さい点みたいに火が何個か点いてな、それからその火の数が増えて、それが大きなって、で真っ暗闇に大の字が浮かび上がるんや」
「楽しみだよ。健吾と一緒に見られるなんて」
俺は少しだけ、大胆に言ってみた。
「そやろ。明日も天気ええみたいやしな。楽しみにしとけよ」
予想通りのリアクションの健吾。
「京都タワーの地下にな、フードコートみたいな場所があんねん。京都の有名店とか流行りの店とかが出てるんや。そこ行こか。何か腹も減ってきたしな」
タワーを下りると、一階にある土産物店で、健吾は漬け物を何袋か買った。
「健吾はお漬け物好きなんだ」
少し意外だった。
「ちゃうわ。社食のおばちゃんのお土産や。いっつも、俺の飯、大盛りにしてくれるし。それと一つはお前にや」
「えっ?俺にくれるの?」
「お菓子よりええやろ?それでしっかり飯食えよ。バイクに乗ってた時な、乗り方も上手かったせいもあるけど、お前、ホンマ軽いなって思ったわ」
「…ありがとう。じゃ、遠慮なくもらうね」
「おう。もう少し肉つけた方がええで」
「今だったら、健吾は俺をお姫様抱っことかできる?」
「当たり前や。抱っこどころか肩に乗せたるわ」
まぁ、こんなもんだろう。男相手だと色気も出ないよな。
エスカレーターで地下へ下りると、全体の照明は少し暗めだった。それぞれの店に当たっているピンスポと、食欲をそそる匂いで、どの店の料理も美味しそうに見えた。
「うわぁ。酒、飲みたなるやん、この雰囲気」
「バイクだもんね…ノンアルでいこうよ」
健吾は残念がったが、急に閃いたようで、パッと表情を明るくした。
「バイク、今晩、さっきのとこ置いとくわ。帰りは電車で帰って、また明日電車でここ来るわ。明日も、バイクでどっか連れてったるしな」
「そっか。じゃあ心置きなく飲めるね。ここは俺が持つから、好きなだけどうぞ」
「あかん、あかん。今回は、俺のおもてなしやから、俺が持つし。お前は、ここ座っとけ。適当に買ってくるから」
健吾はそう言って、まめまめしく色んな料理や酒をテーブルに運んでくれた。
「まあ、とりあえず、最初はこれくらいでええか」
「うん。十分だよ」
俺たちは、クラフトビールで乾杯した。焼き鳥に寿司に串カツに餃子と、どれも味にこだわって作られた美味しいものばかりだ。どんどん酒も進んだ。
三度目の追加の料理を食べ終わる頃には、いい具合に酔いも回っていた。
「ああ、なんかええなぁ…お前と飲むん。オモロいし、気い使わんでええし、本音でしゃべれるし」
「何だよ…もう酔っ払ったのか」
「ちゃうわ…遠距離やけどな、お前と会うん、俺は楽しみにしてんねんぞ…わかってるか」
また、サラリと言ってくれるよ…本当に。
「そりゃ、どうも」
「何やねん、あっさりした言い方しやがって…お前にはな、なんかこう、熱いもんがないねん」
「ほら、もう酒はやめて、お水もらってくるよ」
「言うとくけどな、俺はこれくらいでは、酔えへんのじゃ」
健吾が東京に来ると一緒に飲むけど、こんなに酔うことはなかった。暑さで疲れたせいなのか、こっちで飲んでる気の緩みなのか、これ以上は、絡み酒になりそうだ。それに酔い潰れた健吾を担いで介抱するのは絶対俺には無理だ。
「俺、かき氷食べたいから、買ってくるよ」
「お前は女子か?…ああ、そう言うたら、いっちゃん最初は、俺がお前を彼女と間違えて抱きついたんやったな」
「そうだよ…あれからだよ、俺たちは」
去年の秋の終わりだったな。今まで健吾みたいな男とは出会ったことがなかった。ぶしつけで、好き勝手に言いたいことを言って、でも…いつも真っ直ぐだ。
「俺さ…健吾が…まぁ、いいや、何でもないよ」
「はあ?はっきり言うてみ。俺がどないしてん」
じゃあ、言うよ…健吾が好きって。
なんてね。
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