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第12話

 男二人して、宇治金時のかき氷を食べた。抹茶の味が濃くて、美味しい。  健吾も、かき氷で少し酔いが醒めたようだった。 「このかき氷美味いな…ようテレビで、どこそこの氷使うて、フワフワでとっても美味しいです、ってやってるやろ?ただ氷削ったもんやし全部おんなじや思とったけど、ちゃうわ」 「好きな人は、真冬でも食べるし、専門店もあるんだよ」 「俺は夏だけでええけど。なぁ、それより明日な、さっき京都タワーから見た五山巡りしよか。その途中で、有名な場所通ったら、寄ったらええし…どうや?」 「俺は、健吾と一緒だったらそれでいいよ」 「そうか?ほしたらそれで決まりや」  二回目の、一緒、もスルーだ。分かってたけど。 「なぁ、涼しなったら、一緒に淡路島行かへんか?」  一緒、のお返しをされた。   「淡路島?」 「せや。関西で一番大きい島でな、橋で繋がっとんねん。今年の春にな、今度結婚するツレとツーリングしてんけどな、むっちゃ良かってん。景色はええし、食いもん美味いし、予定しとけよ」  俺は、笑顔で了解、とだけ言った。  ここの支払いも、かき氷以外は健吾がしてくれた。フードコートを出てから、俺はいくらか渡そうとしたけど、健吾は頑として受け取らなかった。 「ええって、言うてるやろ…今度、そっち行った時に旨いもん食わしてくれ」  健吾はそう言って、ヘッドロックではなく俺の肩を組んだ。横断歩道を渡り、目の前の駅前広場に行っても肩を組んだままだった。 「やっぱり、お前ちっこいな」  急に俺の肩を叩きながら健吾は言った。   「健吾がデカいんだよ」 「お前、体重どんだけあんの?」 「最近、計ってないからわからないよ」 「ふぅん…わからない、って、どこぞの女子みたいに言うな」 「じゃあ、健吾が俺を抱き上げたら何キロか分かるだろ」  冗談で言ったつもりが、そやな、って、健吾はその場で軽々と俺をお姫様抱っこをした。俺は、自分から言い出したことなのに慌てて、周りを見た。  が、そんな俺の焦りも知らん顔で、ただの酔っ払いがふざけている、といった目で通り過ぎていく人々。そんな人たちの中で、白人男性の二人組だけが、にこやかにサムアップした。  カップルにカップルと思われたのかもしれない。一瞬だけでもそう見られたのなら、嬉しいかも。    健吾は、純粋に重さを計るように腕を上下させた。俺は今、ダンベルなのだろう。 「そやな…五十五キロくらいか」  健吾は俺を下ろした。 「ええっ…もう少しあると思うけど」 「いや。三十キロのダンベルをな、両手で持った時より、軽かってん」  やっぱり、ダンベルだったか。 「今度、ちゃんと計っとくよ」 「それより、お前もっと飯食え、細過ぎや」 「今日は、いつもの倍は食べてるよ」 「はぁ?お前は小鳥か」 「じゃあ、次は肩に乗ってもいい?」 「担いでほしいんやったら、やったるで」  うん、と言えば本当にしそうだから、俺は話を変えた。 「バイクをさ、駐輪場に置いとくのはいいけど、メットもそのままでいい?俺、ホテルに持って行くけど」  健吾はしばらく考えて、そやな、と言った。 「明日、メット無くなってたら、洒落ならへんしな、今から取りに行ってええか?」 「もちろん。俺は運転もできないし、これくらいしかできないけど」 「何言うてんねん。俺はお前と……まぁ…ほしらた取りに行こか」  お前と…何だろう。気になるけど、まぁ、いっか。  俺はメットを二つと、グレーの上着を持って、京都駅の中央改札口で健吾を見送った。  明日も、健吾の後に乗れることを想像すると、ワクワクするけど、大文字の送り火を見た後で、さよなら、することを考えると、淋しくなった。

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