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第13話

 俺はメットを二つ持って、予約してたビジホに来た。  チェックイン専用機にスマホをかざしてチェックインを済ませ、部屋に入った。  部屋で一人になると、急に疲れを感じた。今、ベッドに横たわると、絶対にそのまま寝てしまうのは確実だ。俺は、バスタブに湯を入れて風呂に入る準備をした。  今日一日、ずっと健吾の声を聞いていたせいで、部屋の静けさをいつも以上に感じてしまう。一人暮らしの部屋でも感じたことのない、寂寥感とでもいうのだろうか、疲れと一緒に俺に伸し掛かってくる。  ベッドの上に置いた健吾の黒いフルフェイスのメットが、ベッドのヘッドボードのライトの明かりを反射してる。俺は、そのメットを軽く小突いて、風呂に入りに行った。  バスタブに入ると、内腿に軽い筋肉痛があるのに気付いた。俺はどれだけ健吾を挟み込んでいたんだろう。思わず一人で笑った。そして湯の中でゆらゆら浮かんでいる自分のムスコを見た。思いもよらなかった健吾への股間タッチを思い出した。分厚いジーンズのせいでわからなかったが、健吾の大きさはどうなんだろう…。あの体型で粗チンといのは想像し難いが、アレの大きさは体の大きさに比例はしないらしい。    いつも会っている時は、下半身の想像なんてしないのに、今日はよく考えたら、俺の頭の中はずっとやらしかった。エロエロアトラクションと体重測定と酒のせいにしておこう。  俺は風呂から上がった。    ベッドの上にいる、丸くて黒い奴。俺はそいつの横に座った。 「お前の中身は、俺のことどう思ってるんだ?」  アホ、知るか。  って、そいつは言ってるような…。  俺は、そいつを持ち上げて、正面を向かせた。  ミラー仕様のシールドを上げた。健吾の顔が出てきたらホラーだけど、俺は真っ黒の空洞に顔を近づけた。  汗臭くはないけど、なんか健吾を想像する匂いがした。  …なんか、やばくなってきた、俺の股間。  匂いって、五感の中でも、一番想像が膨らむ感覚だと思う。  まさか、メットをおかずにして抜くなんてことは、ありえない。いや、メットの匂いでだけど。  俺は、黒いそいつを窓際の椅子に置いて深呼吸をした。    健吾は、電車の中で眠ってしまって乗り過ごしていないだろうか…ちゃんと家に帰れただろうか。電車だから方向音痴は関係ないよな。  明日も会える。明日もバイクの後ろにも乗せてもらえる。  心が浮き立つ反面、また、引き際を考えてしまう。  送り火と一緒に、俺の想いも空高く送ろうか。でも、送れるかな。淡路島に行こうって言ってくれて、そんなの絶対に楽しいに決まってるのに…どうしよう。  俺は、どうしたいんだ。  健吾…好きだけど、俺、苦しいよ。

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