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第14話

 今朝の待ち合わせ場所も、昨日と同じ中央改札口の前だ。俺は、昨日、思わず抜きそうになった黒のメットと俺用のシルバーのメットを持って、健吾が来るのを待った。程なくすると、健吾がやって来た。 「おお。唯斗、おはよう。メットありがとうな」 「おはよう、健吾。昨日はごちそうさま」  かまへんわ、って言う健吾の顔は少し浮腫んでるみたいだ。 「健吾、顔、浮腫んでる?」 「あぁ…わかるか?そんなに飲んだつもりなかってんけど、起きたら久々に頭痛かったわ」 「バイクの運転大丈夫?」 「心配すんな、もうどうもないわ」 「朝ご飯食べた?」 「いや、まだや」 「二日酔いで、食べられなかったんでしょう?」  まぁな、と渋々言った。 「じゃあ、どこかお店に入ってモーニング食べよ。俺もコーヒー飲みたいからさ」  健吾は、せやな、と言って、俺たちは京都タワーの近くのカフェに行くことにした。  店の中はインバウンドの客でいっぱいだったが、空いている壁際のテーブルを見つけた。健吾にテーブルを確保させて、俺は注文の列に並んだ。アイスラテとサンドウィッチを適当に買って、トレーに乗せて健吾のいるテーブルに行くと、健吾は壁際のソファーに座って、ニヤニヤしていた。  テーブルの前には椅子がなかった。 「ここの椅子ってなかったの?」 「隣、見てみ」  隣の四人掛けのテーブルに、他のテーブルから寄せ集めた椅子を並べて押し合うように、恐らくインバウンドの客たちが、座っていた。 「なるほどね…じゃあ俺は空気椅子ってことか」 「俺の膝の上に座るか?」  朝からまたそういうことを言うんだ。  健吾は、座っているソファーを横にずれて俺が座れるスペースを空けてくれた。荷物カゴにメットを入れても、密着は仕方がない。  朝、起きた時には、エロモードは止めようと思っていたのに、早々に無理な状況かもしれない。  隣同士肩を並べるには狭いからって、健吾は背中を壁に付けるように深めに座り、体を俺に向け斜めにして座った。俺は肩が当たらないように少し前気味に座った。俺の腕は健吾の胸元に当たりそうだ。これで健吾が俺の肩とかに手を回すと、間違いなくカップル座りだ。昨夜の、白人男性の二人組がいたら、またサムアップされそうだ。   「お前が細い奴でよかったわ。俺みたいなんやったら、テイクアウトにせなあかんかったな」  健吾は普通に笑って、ラテを飲んだ。 「最初にな、鳥居形から回るわ。で、東の方に走って、最後は大文字や。途中で、仁和寺とか金閣寺にも行こか。両方とも世界遺産やしな」  健吾はサンドウィッチをパクつきながらスマホで京都市内の地図を出して俺に見せて言った。 「最初の鳥居形はここや」 「ねぇ、本当に線を引いた見たいに道があるんだね」 「あぁ、そうや。知ってるか?京都人はな、北へ行くのを、上がるで、南に行くのを、下がるって言いよんねん。俺が京都に来た頃な、おじいちゃんがこの道を上がってって言うしな、で、上の方見たら大笑いされたわ」 「あぁ、それ聞いたことあるよ。本当に上がるとか下がるって言うんだね」 「それにな、格子になってる道のほとんどに通り名があってな、京都人はその通り名を覚えとおるからな、なになに通りを上がって、なになに通りを西に入ったとこどす、って言うよんねん。こっちは通り名なんか知らんから、はぁ?ってなるやろ…ほしたらな」 「はいはい。いけずなことを言われたんだよね」  俺は、健吾の頭をポンポンと叩いてやった。  健吾は、ふん、って鼻を鳴らして、二つ目のサンドウィッチに手を伸ばした。  いいな…こんな感じ。このまま時間が止まればいいのに。ずっとずっと、健吾の傍で冗談言って笑い合ってさ。  隣のインバウンドの客たちが席を立ち、何食わぬ顔で椅子を元に戻した。俺はそっちに移った。 「あぁ、そや、これいくらやった?」 「もう、いいってば」 「ほしたら、ごちそうさん。そろそろ行こか」  俺たちも、ラテを飲み終え、健吾のバイクが停まっている駐輪場へ向かった。

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