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第15話

 最初に行く鳥居形の山は、観光で有名な嵐山にあると健吾は言った。 「渡月橋とか聞いたことあるやろ?ただの橋やのに、なんか観光客は渡りたいらしいわ。でな、ちょっと行ったとこにある広沢池はな、水面に逆さまに鳥居が映るらしいわ。俺は見たことないけど、会社の女子らが、映えスポットやとか言うとったわ」  俺は健吾の言い方にクスクス笑った。 「何やねん。何か可笑しいこと言うたか?」 「いや。健吾ってさ京都のこと話す時って、絶対に悪口っぽく言うよね。中学の時に何があったの?」 「アホ、何もないわ。ほらちゃんとメット被って、掴まっとけよ」  健吾はぶっきらぼうに言うと、バイクのエンジンをかけた。俺たちは、嵐山へと向かった。    カフェで健吾のスマホの地図で見た通り、街中は道幅の違いはあるが、きちんと縦横に通っている。どこも同じ風景に見えてくる。確かに上がる、下がる、西入る、東入る、の言い方は必要かもなと思えた。  一時間もかからないうちに、きれいに山肌が鳥居の形になっているのが見えた。観光客が大勢いる渡月橋を渡ると、次は左大文字や、と健吾はバイクを走らせた。  途中で仁和寺や金閣寺にも寄って、左大文字を見た頃には昼過ぎになっていた。  俺たちは途中でバイクを止めて、水分補給をした。 「時間経つの早いな…腹減ったやろ」 「そうだね。でもガッツリは食べられないけど」 「それやったら、この近くに年がら年中、冷麺出してる店あるから、そこ行こか」 「あっ、それいい…でもさ、健吾ってバイクに乗ってる時は道間違わないよね」  健吾はペットボトルの水を一気に飲み干すと、俺を軽く睨んだ。 「そやからな、俺は方向音痴ちゃう言うてるやろ」 「今度、東京に来たら…」  そうだ…今度はないかもしれない。 「東京はな、おかしいねんて。人間の感覚を狂わすなんかがあんねんて」  苦し紛れの言い様に笑った。  俺たちは、健吾お薦めの町中華の店に入った。 注文した冷麺はこしがあって喉越しのいい麺と、さっぱりしてコクのあるタレが絶品の冷麺だった。暑い中でも並んで食べたい店だった。 「昨日、貴船行った時な、船形も見えとってんけど、気い付いたか?」 「えっ?そうなんだ。右側に大文字は見えたけど」 「そやな。俺も言うの忘れとったわ。今から船形見にいこか、その後で妙法見て、最後に大文字や」  最後に大文字。  大の文字に火が灯ったら、健吾に言おうかな。  健吾が好きだって。    言っても、どうなるわけでもない。言うと気まずくなるかもしれない。でも、このまま健吾にただの友達と思われ続けるのもな…  俺の本当の気持ちを伝えたい、けど、まだ、迷っている俺がいる。  会えなくなるかもしれない覚悟をして、それでも気持ちって伝える方がいいのかな。  どうしよう…俺。  俺はバイクの後ろに跨って、健吾の背中にしがみつくように掴まった。  健吾…好きだ。  

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