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君に捧げる千の花束 32

 ひゅー……と微かな空気の漏れる音がする。  うっすらと開かれた後藤の唇からこぼれたそれは、呼吸というよりも悲鳴だった。 「ぅ ぁ、ッ…………ぅ、あ……」  足を砕いた瞬間よりも余程こちらの方が怯えているように見える。  喜蝶はその様子に、わずかに怯みを見せた。  状況だけで言うならば今の後藤は救いのない状態で、怯えるならば目の前の武器を持つ自分に対してのはずだ。  なのに…… 「 っ、知らない。知らないっ!」  明かりのない、廃屋の中だというのに後藤の顔色は真っ白だった。 「……おい」 「は……繁田だ…………繁田って奴……」 「はんだ?」 「  っ、一緒に、色々したやつ……」 「色々じゃないだろ? 相手構わずにレイプしてまわってたじゃないか」  静かにそういうと、ひ……と蚊の鳴くような空気がこぼれた。  行きの通り道の機能しかしなくなった唇はずっと小刻みに震え、何か突破口はないかと呻き続けている。 「あ、あ、あれ は、オメガのヒート、に、ま、まきこまれて…………」 「ベータと組んで、発情薬打った奴に襲いかかったろ」 「――――――――! あ、あのことで……全然関係のない奴が捕まったって…………聞、い………………  」  後藤の言葉は一瞬だけ勢いが良かったけれど、後は再び囁くような声に変わった。  震えが次第に大きくなって、床に擦れた靴がきゅ きゅ と場に合わない可愛らしい音を立て続ける。  喜蝶はカン! と音を立てて金属バットを下ろすと、ガラス玉のような瞳でじっと後藤を見つめ続けた。 「……なんか……その場にいたアルファがやったことに、なった、って…………」  言葉が終わる前に、激情のままにバットを振り下ろした。  振るとピシャ と床に血が飛び散る。  流石に息が上がって、見えないけれど天を仰ぐように上を向いて大きく息を吐いた。  悲鳴は、もう聞こえない。  後藤の尻から溢れ出したアンモニア臭の液体をチラリと見てから、項垂れてぴくりとも動かなくなった体に向けて再び金属バットを振り下ろす。  何度目かの鈍い打撃音と悲鳴にならない空気の漏れ。  歯がいくつか無くなった口に、以前のように金属バットを押し付けると、そこでやっと声が漏れた。 「し……おれは、は んだ と、しか…………」 「バレてるって言ってんだろ!」  足先に再びバットを振り下ろすと、短い悲鳴をあげて身を捩る。 「オレにはわかるんだよ。あんたと、はんだ、それ以外にもう一人、弩級のアルファがいただろう」  はっきりとそう告げてやると、後藤は突然暴れ始めた。  折れているっていうのに何も考えず、がむしゃらに手足を振り回して叫び出した。    

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