139 / 156
君に捧げる千の花束 31
後藤の前歯にカツン とバッドの先端を当ててやると、ヒィと甲高い声が漏れたがそれだけで、それ以上何も言わなかった。
「うん」
力ずくで黙らせる方法ばかり考えていたから、こんなにあっさりと黙られると思わず、喜蝶は拍子抜けしたような声を漏らして少しだけ身を引く。
「あんたらがさ、つるんでいろんなことやってたの知ってるんだ」
「――――!」
「残り二人の名前、吐いてもらおうか」
コツコツ と金属バットで床を叩くと、後藤が小さく跳ねる。
「なん……なんで……」
狼狽始めた後藤の足首にバットの先端を当てがい、一呼吸おく。
後藤は喜蝶が何をしようとしているのか察したのか、「やめろ! やめっ……」と震える声で訴え始める。
「やめて……何、やめ……っ」
「きっと、薫もそう言ったはずなんだ」
振り上げた腕を勢いよく下ろした瞬間、金属バットの硬質な音が響いてそれ以外の音はあまり聞こえなかった。
けれど手応えは鈍く肉とその向こうにある骨にまでダメージを与えたと、はっきりと伝えてくるほど確かだった。
「――ぅ、あぁぁぁっ!」
上がった悲鳴が大きかったのは一瞬で、すぐに喉からは空気だけが漏れるようになる。
ひゅうひゅうと奇妙な音がして、後藤が「なんでこんな……どうして、どうして……」とうわ言のように言葉を漏らす。
「あんたと、残り二人。誰?」
「 …………っ」
後藤の様子から、喜蝶はすぐに答えが返るものだとばかり思っていた。
けれど後藤は脂汗を浮かべたまま、口をはくはくと動かし……結局は何も言わないまま唇を引き結んでしまう。
喜蝶は先ほど殴りつけた足首が腫れ上がり、つま先が奇妙な方向に向いているのを眺めながら、いつものように立ちはだかる奇妙な壁を感じた。
全員そうだった。
特定の人物の話だけは絶対にしようとしない。
まるでそれが禁忌だと生まれた時から刷り込まれ、そういった本能でもあるかのように……けれどそれは逆に、誰も名前をあげなかった人間を浮き彫りにすることになった。
何人も何人も……誰も口に出したがらない人物。
「だ……れ、でも、ない。俺 は、何も、……やってない」
「は?」
「…………ぁ、はは! 残り二人の名前を聞く時点で、あんた、なんも知らないんだろ?」
後藤の唇はぶるぶると震えていた。
けれど、目の前に立つ金属バットを持った人物よりも恐ろしいものがあるのだというような形相で、嘲るように喜蝶を見返す。
「 ――――時宝だ」
喜蝶の一言は自信はあったが当てずっぽうでもあった。
正直なところを言ってしまえば、喜蝶には後藤以外の確かな情報はなかった。
ともだちにシェアしよう!

