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落ち穂拾い的な 意外と壁は低い気がする 2
「久しぶり、信くん。……おめでとう、パパになったんだね」
お疲れのようだね……とは言わないでおいた。
口に出すとなんだか追い討ちをかけてしまいそうな雰囲気があったからだ。
「ありがとうございます、帰還祝いの時には顔を出せなくてすみません。ジャングルの方に行かされてるって聞いた時はどうなるかと思いましたけど、元気そうでよかった」
娘を抱き上げ、くたびれているだろうにあやすように話しかける姿は、働いて帰ってきた父親の理想のような光景だった。
「はぁ〜癒される」
柔らかでクセのある髪に鼻先を埋めると、くんくんと匂いを嗅いではさらにへにゃへにゃとした表情になった。
その光景があまりにも幸せそうで、眩しくて、オレはつい尋ねかけてしまう。
「……信くんは、お義父さんに結婚を反対されなかったの?」
記憶を辿ってみれば、信くんはまだ大学を卒業をしていないはずだ。もちろん成人しているのだから問題はないのだろうけど……オレは「ジャングル送り」という名の試練を課されたというのに、なんだか腑に落ちなくて。
「え? 反対ですか? ……いや、むしろけしかけられたというかなんというか……」
信くんはちょっと耳たぶを赤くして口籠る。
「デキ婚だったので、孫ができることにかなり喜んでいたようです。気づいた時にはあの家も建てられてたんで」
……
…………
なんだ、そのイージーモードは。
オレへのあの試練は一体なんだ⁉︎
「それに、稼ぎがないと困るだろうからとインターンとして仕事も用意してもらってます」
学業との両立でちょっと疲れますけど と、げっそりとこけた頬で笑う。
勉強に仕事に育児にと大変な様子は見てわかるけれど、それでも幸せそうな姿にハンカチを噛みたい気分だった。
別に住まいや勤め先を用意して欲しいわけじゃないし、実子との差があるのは当然だ。でもあっちで結婚を素直に認めてるならこっちでも認めてくれてくれてもいいのに! と思う。
いまだに式場選びや招待客のことで難癖つけては延期させようとしてくるのが腹立たしくて仕方ない。
何が違うっていうんだ⁉︎
「……待てよ?」
ふと、オレの脳内に一つの仮説が浮かび上がった。
あの父親が信くんにこれほどまで甘いのは、信くんが優秀だからとか、まだ学生だからとか、そんな高尚な理由じゃない。
「……孫、か」
そう、すべてはあの腕の中に収まる、ふにふにとした小さな存在。あれこそが、冷徹な魔王を好々爺へと変貌させた究極の兵器じゃないのだろうか?
オレは隣で姪っ子を覗き込み、「可愛いなぁ」と頬を緩ませている智をじっと見つめた。
もし、智にそっくりな、小さな天使が誕生したとしたら……
「龍成さん? どうしたんですか、そんな怖い顔して」
智が不思議そうにこちらを覗き込んでくる。
オレは慌てて表情を繕ったが、脳内ではすでに意外と低いかもしれない壁を突き破る「お父様完全攻略・孫作戦」のシミュレーションが始まっていた。
END.
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