243 / 261

Aria of Echoes 1

「本講義では、オメガバースにおける家族内ダイナミクス、とりわけ『アルファ親とアルファ子の関係性の緊張構造』について考察する――――」  午後一の退屈な授業の出だしを聞いて一ノ瀬凪はあくびをひとつこぼした。 「――――まず前提として、アルファという性は単なる生物学的分類にとどまらず、強い縄張り意識、支配性、そして番に対する排他的結合志向を有する。この特性は、社会的役割や個体間関係において顕著な影響を及ぼす。ここで問題となるのが、アルファの親を持つ子供が同じくアルファとして発現した場合である。このとき、親子関係は一般的な血縁的親和性とは異なる軸で緊張を孕む傾向がある。第一に、『同質競合性』である。アルファ同士は本質的に優位性を巡る競争関係に入りやすく、たとえ親子であっても例外ではない。特に成長した子アルファは、無意識的に父親αの支配圏に干渉する存在となり、これが対立の契機となる」  つら と教授の口から出る言葉からは、聞いているものに理解させようという気概はまったく感じない。ただノルマとして消化のための授業のようで、やる気のないダラダラと教科書を読む授業が続いて行く。 「  第二に――――」  再び大きなあくびをするとじわりと視界が滲み、凪は教科書を追うことをやめてしまった。 「たとえそれが親子関係であっても、父親アルファの本能は『番の近くにいる別のアルファ』として子を認識する側面を持ち、結果として警戒や敵対的反応が引き起こされやすい。第三に、「遺伝的親和性による逆説的摩擦」である。子供は父親アルファの遺伝子を半分受け継いでおり、同時にオメガとの相性も高くなる傾向がある。これは生物学的には合理的であり、フェロモン的適合性も一定程度共有されることを意味する。しかしこの『相性の良さ』は、父親アルファにとっては競合的優位を脅かす要因として知覚されうる。すなわち、自身の番と高い適合性を持つ別個体、しかも同じアルファという構図が成立し、これが心理的・本能的な緊張を増幅させる」  半すり鉢状の講堂の中心で教授がボソボソと喋る内容は、わざわざ聞く必要もないようなものだった。  αの父親とαの子供の中が悪いことを身をもって感じているのは凪自身だからだ。  そっと触れる頬は見た目こそ何事もなかったけれど、鈍い痛みが残ったままで、父親がふるった暴力の名残を残している。 「以上を総合すると、アルファ親とアルファ子の関係が険悪化しやすいのは、単なる性格的衝突ではなく、 同質間競争、 番に対する排他性、遺伝的親和性が生むフェロモン的干渉という三層構造によって説明される」

ともだちにシェアしよう!