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Aria of Echoes 50

「なに……えっと……性病検査? とか?」 「なんでだよっ! なんでそっちを考えるんだ!」  ぼんやりした汐音は凪に怒られてこてんと首を倒す。 「え……だって、なぁくんはいつも避妊してくれてるし」  ちょっと拗ねるような様子で言うと、汐音は足元に散らばったままの使用済みコンドームを見た。凪は慌ててそれらをゴミ箱に投げ入れてから、改めて汐音に向き直る。 「ちゃんとできなかった時、あったろ。初めてん時。後で薬もらいに行ったけど、それも絶対じゃないだろうし」 「……」 「今日、授業でやってた。あんなたがオレの服を着たがるのって、巣作りだろ」  「巣作り」と繰り返し、汐音は口を閉ざしてしまう。 「ヒートが来ないのも妊娠してるからだ。ずっとムラムラしてるのは子供が前立腺を刺激してるからなんだって」 「……」  汐音はやはり無言のまま、何も聞こえなかったように俯き……ぶるりと大きく体を震わせる。  今回の反応もまた、凪の想像していたものとは違い、怯えるように真っ青になって後ずさっていく。手放しで抱き合い、めでたしめでたしで終わるようなことを考えていただけに、凪は咄嗟に言葉が出ずに身を固くした。 「…………っ、妊娠 を、調べて……どうするの?」 「どうする?」  凪は言葉を繰り返し、それから何も考えていなかったことに気づく。  汐音の腹の中に自分の子供がいる、その事実だけでいっぱいいっぱいでそれ以上のことは考えられなかった。かろうじて先に入籍だと考えつくことができたが、それ以外はぼんやりとしたモヤの中のようなものだ。 「教えて」 「おし……」  人生設計を言えと言われているのかと、凪は混乱した頭を振り絞る。 「性別がどっちなのか聞きいて、服の準備するだろ? この部屋じゃ狭いから引越しして……」 「性別っ……聞くの?」 「えっあっ……産まれるまでわからない方がいいのか?」 「…………っ」    汐音は何か言おうとして唇を震わし……堰を切ったように泣き出しながら凪へと飛びつく。  華奢な体だったが、不意を突かれた凪は受け止めはしたものの踏ん張ることができず、そのままぼすんとベッドへと沈んだ。 「…………なぁ、なんで泣いてんの?」  細い肩が震え続け、ず……と鼻を啜る音で凪は汐音が泣いていることに気づく。  そっと問いかけた言葉の返事を待つ凪は、胸元が少しずつ濡れる感触に苦笑した。 「オレ、何やらかしたの?」  緩く波を描く髪を指先で摘んで軽く引っ張って様子を見て…… 「汐音。しーおーん? 泣くなって。あんたに泣かれたらどうしたらいいのかわかんなくて途方に暮れるだろ」

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