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落ち穂拾い的な この本の作者です 2
「————これに、お願いします」
僕の余韻なんか全然考えてないぶっきらぼうな声と共に、ボッロボロの絵本が差し出される。
流石にこれは作者に見せるには気が引けるだろうってくらい、ボロボロ……だけど、いっぱい読んだことがわかる痕跡。
繰り返し読んで、僕のどうしようもない思いが詰まった黒歴史のようなそれを大事にしてくれていたんだとわかる。
「読んでくれてありがとうございます、いっぱい読んでくれたんですね」
あくまで作家として返事をした僕に、相手の切れ長な目がはっと見開いて、唇のほくろをキュッと噛み締めたのがわかった。
「……オレは、あんたのファンで、これを読んだ瞬間から虜になった。この世の中にこんな綺麗な絵を描ける人間がいるのかって思って、何にもできなかった……ただただ時間を潰すしかなかったオレに絵を描こうと思わせてくれた。オレの人生の指針で、目指す場所で、憧れで……」
僕の初めてのサイン会だから、普段のラフな格好じゃなくってちょっと気取ったジャケットなんか着ちゃって、普段は面と向かって言ってくれないような感想も言ってくれて……なんだかくすぐったくて、そわそわとペンを走らせた。
「あんた以上に尊敬する人は、いない」
「嬉しいな!」
「…………この本はオレを助けてくれた大事なものだ」
ボソボソと呟く声は恥ずかしさが極まってしまっているせいだってわかってる。
「この本がずっと、好きで、これからも好きだ」
この絵本が君を慰めてくれたことも、よくわかってる。
「そして、汐音を…………愛してる」
「こーら、それは家で聞かせて」
「家だと、あんた笑い出すだろ」
そう言うと真っ赤になった凪はジャケットのポケットからゴソゴソと小さな箱を取り出して、テーブルの向こうで膝をついた。
「へ⁉︎」
「オレのすべてを捧げます。オレを番にしてください」
思わず飛び上がったのは僕だけじゃない。周りの人も、後ろに並んでいる人も……なんならさっきサインをした子も、びっくりして振り返ってこっちを見ている。
「あっあっあ……」
頭が真っ白になった僕の手を取り、煌めく石がはめられる。以前に結婚しようとはめてくれたインディゴブルーの綺麗な指輪に重ねるように、波の飛沫を思わせるメレダイヤが散りばめられたものだった。
「も、もう、指輪はもらってるのに⁉︎」
なんて、どうでもいいことを言ってしまって……
「あれは、結婚指輪。こっちは、番指輪」
番指輪? と口にして、クスリと吹き出す。
そんな造語を作ってまで、凪は僕が自分のパートナーで番なんだと示したいらしい。パシャリパシャリとこの瞬間を撮る音が人垣から聞こえて、僕と彼の関係はあっという間に世間に広まるだろう。
顔出ししたことで、ちょっかいを出してくる人がいないわけでもなかったから……
「いや?」
「うぅん……嬉しい」
深い海と白い波のように、二つの指輪は重ねられて元からこのデザインだったんじゃないかってくらい自然に指で輝いていた。
END.
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