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第20話 身体だけであっても ***

「……んぅっ」 「悪い、奥までは突っ込まねぇようにするから……少し体勢変えるぞ」 煌誠はそう言うなり、繋がったままの氷岬をソファの上に押し倒す。 両膝を押して氷岬の足をしっかりと固定すると、ゆるゆると動き出した。 ぱちゅ、ぱちゅ、という卑猥な水音がリビングに響いて、見ている伊吹の喉が鳴る。 煌誠の眉間には皺が寄り、もっと激しく動きたい衝動をなんとか堪えて、あくまで氷岬の性感帯への刺激を優先していることが、傍目からでもよく理解できた。 知り合いの男同士のセックスなんて見たくもないと思っていたが、変なAVよりもずっと、興奮してしまう。 「ぁっ!ぁあ……ッッ!」 煌誠が開始した律動に合わせて、甘さを纏う氷岬の声が漏れる。 「ほら、お前のイイとこたくさん擦ってやるから、好きなだけ感じて、イけよ」 「ぁうッ! んんぅ……ッ!」 これは罰なのだから感じてはいけない、と思い込む氷岬の心とは裏腹に、その身体は行為に悦びを感じて何度も与えられる快感を拾い上げる。 「煌誠さんッ! こう、せい、さ……ああッッ!」 やがて歯止めのかからなくなった煌誠はペースを上げて、自分を刻み込むように何度も氷岬の中を穿つ。 「氷岬……、氷岬……ッッ!」 「あ、嫌だ、また……っっ」 氷岬が再び昂ったことに気づいた煌誠はそれをしっかりと握り締め、先ほどの愛撫で把握した氷岬のペニスの弱点を間髪入れずに攻めていく。 後ろと前、両方から攻められた氷岬は、快感に溺れそうになる脳と身体を懸命に叱咤しようとしたが、その抵抗は長く続かなかった。 じゅぶ、じゅぶ、じゅぶ!! 二人は同時に頂点へと達し……そして同時に、爆ぜた。 *** 「煌誠さん、ここまでやる必要、ありました……?」 トイレで抜いてきた伊吹も事後の片付けを手伝いながら、氷岬の全身に散りばめられた煌誠の所有欲を見て苦笑する。 「……どうだろうな。必要はなかったかもしれないが、俺がそうしたかっただけだ」 気を失うように寝入った氷岬の頭を撫でながら、その寝顔を見つめる煌誠の表情は今までになく、柔らかい。 「……今日、こいつの運命の番と話したが、ヤクザとは関わりたくないタイプに見えた」 「まあ、世の中の人間のほとんどが、そうっすよね」 「ああ。だから、やっぱり駄目だと思ったんだ」 「……どういう意味ですか?」 「こいつの番が、ヤクザを辞めろと氷岬に決して言わない人間だったら、俺は氷岬を譲ってもいいと思ってた」 「……マジですか?」 伊吹は目を丸くする。 それを確認しに行ったということか。 「まあ、少しだけな。九十九パーセント、譲るつもりはなかったが」 「残りの一パーセントが、今日消えたわけですね」 「ああ」 もし、運命の番に「ヤクザと縁を切れ」と言われてしまえば、氷岬は悩むだろう。 そしてきっと、過去に自分の母ではなく運命の番を選んだ父親のように、最終的には番を選ぶのだ。 心の奥底に罪悪感を抱えたままであれば、まだいい。 しかし煌誠のことをすっかり忘れ、番の横で微笑む氷岬なんて、想像するだけで殺したくなってしまう。 番のことを、これから氷岬は一生忘れない。 だったら自分の横で、煌誠のことも、番のことも、忘れなければいいのだ。 煌誠が手に入れられるのは、恐らくこれから先もずっと、氷岬の身体だけ。 それがわかっていても、氷岬を縛り付けることに、もうなんの遠慮も躊躇もいらなかった。 氷岬が離れていくことに比べれば。

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