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第23話 マッチングした人たちとの対話
翌日、煌誠は自分の運転で氷岬を六組の出資先へ連れて回った。
レストランやカフェ、雑貨店やパティスリーなど業種は様々で、第一次性も男同士だったり女同士だったり男女だったりしたが、その全ての経営者がマッチングアプリで知り合ったαとΩである。
面談中、ヤクザのヤの字も感じさせないような穏やかな表情で終始にこやかに談笑する煌誠だったが、終始どことなくソワソワしている印象を氷岬は受けた。
「……もしかして、緊張しているのですか? 煌誠さん」
「ああ、まぁな」
十年以上の付き合いで、氷岬には煌誠がどんな気分なのか、直ぐにわかってしまう。
しかし、十年以上の付き合いの中で、煌誠が緊張しているところなど氷岬は見たことがなかった。
そんな感情など持ち合わせず無縁だと思っていたので少し驚いたが、ヤクザであることを隠して一般人と会話することは初めてのことなのかもしれないと氷岬は納得する。
そうであれば、慣れている自分がフォローすればいいだけだ。
相手から見えないところで手を伸ばし、煌誠の大きな手の甲に自分の手を乗せ、安心させるように少し力を込めて握る。
煌誠はそんな氷岬の顔をじっと見ると、ふっと微笑んで肩の力を抜いたように見えた。
「センスの良い店構えですね」
「ああ」
少し落ち着いたらしい煌誠が彼らとの会話の舵をとる。
その主軸は経営方針についてであったが、それでも言葉の端々から今の生活になんの不満も不安もないことが伺え、その事実は赤の他人である氷岬を幸せな気分にさせる。
自分の開発が、人の幸せの役に立てた。
それは、自分がこの世に生まれてきた存在意義のようにすら思えた。
六組全員が、パートナーと出会えたことを心から喜んでいた。
そして相手に向ける表情も、慈愛に満ちたものだった。
氷岬は、自分も運命の番と結ばれていたのなら今頃こんな表情を浮かべていたのだろうかと思い、ふとその瞬間、気付いた。
自分に向ける煌誠の視線が、彼らのものと同じであったことに。
***
二人は六組目との面談を終えると、近くにとっていたホテルの一室にチェックインした。
「色々回って疲れただろう、氷岬」
「いえ、大丈夫です。煌誠さんに運転をお任せしてしまいましたので」
煌誠はホテルの冷蔵庫の中にある缶ビールを一本掴むと小気味よい音を立てて開け、氷岬に渡す。
「それで……今日、何か気づいたことはなかったか?」
「気づいたこと……」
氷岬はそれを受け取りながら、煌誠を見上げた。
煌誠が自分に執着するのは、単なるお気に入りだからだ、と思っていた。
金を量産するお気に入りのオモチャがどこかへいってしまう……赤の他人に横取りされるのが、気に食わないのだろうと。
そんな子供っぽいところも、魅力的に見えてしまう人だから。
しかし今日、もしかしたら違っていたのかもしれないと気付いたのだ。
もしかして煌誠は――自分のことを好きなのではないかと、一瞬考えてしまった。
「……いえ、特には」
氷岬は煌誠と缶ビールで乾杯すると、それに軽く口をつけながら、苦笑する。
煌誠から直接、好きだと言われたことはない。
お気に入りだとか、俺のモンだとかは散々言われるが、そうした好意を示す言葉も貰ったことがないのに、そんな妄想をするなんて、おこがましいことこの上ない。
ここ最近、手を出されることすらなくなったのに……そう考えて、氷岬の胸がぎゅっと締め付けられた気がした。
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