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【過去編】 6.風になびく~ラスヴァンは今日も裸~

 朝、リーヴェルの空はやけに澄みわたっていた。  静けさの中に鳥の声が響き、やわらかな風が吹いている。  そして──その風の中を、ふるちんで歩く男がひとり。  ラスヴァンだ。 「……暑いし、洗濯物ぜんぶやっちまったし。服が乾くまで、これでいいだろ」  木造の家の裏庭。草の上を裸足で歩くラスヴァンは、まったく気にする様子がない。  腰に何も巻かず、生えている葉っぱや草が、うまいこと“ぶるん棒”を隠してくれていた。 「…………ッッ!?」  ジェイスは、ふと窓の外に視線を向け、その光景を目撃してしまった。 (なにしてんだアイツッッ!?)  目をこすって見直しても、そこには堂々たる“ふるちんライフ”を満喫するラスヴァンの姿。  ジェイスの顔は、さくらんぼのように真っ赤になった。 「おーい、ジェイス。下着乾いたら教えてくれ」 「デカイ声で言うなーーーーッッ!!!////」  ジェイスは桶を片手に裏庭へダッシュし、ラスヴァンのぶるん棒に桶をバシッとあてがった。 「……んだこれ?」 「服着ろ! 変態! ばか! なんでそんな堂々としてんだよ!!////」 「何言ってんだ。ヴォルクじゃ、夏はみんなこんなもんだったぞ?」 「ヒィ!……ヴォルク恐ろしいっ!!」  幸い、近隣の家が離れていたおかげで、通報は免れた。 ―――  その夜。  ジェイスは寝返りを打ちながら、ぼそっと呟いた。 (……ぶるん棒が、風に……揺れてた……////)  夢にまで出てくる、ラスヴァンのぶるん棒。  しかも、一昨日にはラスヴァンの“勃ちモノ”に、うっかり触れてしまった事件もある。  色々重なり、翌日からジェイスはラスヴァンを直視できなくなっていた。 ――― 「……ジェイス?」  声をかけられ、ジェイスの肩がビクッと跳ねる。 「ん、ん? なに?」  ラスヴァンは、いつも通りの顔でこちらを見ていた。ちゃんと服も着ている。  ……それなのに、ジェイスの目には── (服の下に……ぶるん棒が……ッ)  もはや幻視である。 「お前さ……なんか変だな。顔赤いし、飯も変なとこにこぼしてるし」 「べっ、べつに! 変じゃない!!」  ジェイスは、心の中で奇妙な“感情の混線”に悩まされていた。  ラスヴァンのことは、好き。  けれど、それは「人として」なのか、「友達として」なのか。  それとも……「ぶるん棒を見たから」なのか──  わからない。 (オレ、……ラスヴァンのこと、見すぎてない……?  いや、でも、ふるちんで歩いてたのはアイツが悪いし……  でも、それを今でも思い出すオレって……)  ジェイスは答えの出ない想いを抱え、ベッドの上でゴロゴロと転がっていた。 (ラスヴァン、あんな堂々と……“全部”出して歩いてたよな……  なのにオレは、ちょっと見ただけでビクビクして……)  うつ伏せになって枕に顔を埋める。 (……よし、やってみるか……)  ジェイスは決意した。  ラスヴァンの気持ちを、少しでも知りたかった。彼が何を感じていたのか。  家の裏庭──誰もいない時間帯を見計らい、そっと脱ぎ始める。 「……う、さ、さむ……っ。でも……開放感あるかも…風……あたる……  ラスヴァンもこんな気持ちだったのかな……」  ぴゅうううう〜〜〜〜〜  ジェイスの可愛らしいピンクの小粒が、風に揺れる。  震えながらも、一歩を踏み出す。 「……こ、これがラスヴァンの見てた景色……」  朝日が昇ってくる。  目を細め、仁王立ちでそれを見つめるジェイス。  ──そして、事件は起きた。 「……おまえ、なにしてんだ?」 「ッッ!!!!????」  目が合った。  井戸の桶を片手に、ラスヴァンがそこに立っていた。  ジェイスの“全部”が、朝日に照らされて丸見えだった。 「な、ななななっ!!! オレは!! ちょっと!! 試してみただけで!!////」 「いや、もう、見せつけにきたようにしか見えねえんだが……」  からかうように笑うラスヴァン。 「ちがーーう!!///////」  ジェイスは真っ赤な顔で、全身を手で覆いながら、バタバタと物陰へ逃げていった。  残されたラスヴァンは、騒がしさがなくなるまで、ぼうっとその余韻に浸っていた。 ―――  午後の光がやわらかく差し込む室内。  ジェイスはテーブルで繕い物をしていた。  ラスヴァンは毛布にくるまり、昼寝をしているふりをしながら視線を送る。 (……落ち着かねぇ)  ジェイスが足を組み替えるたび、さっきの全裸ジェイスが脳裏をよぎる。  慌てて逃げたときの尻──ぷるぷると震えていた。 (あれはよかった……正直欲情した。笑い話になんかできる状態じゃない)  “可愛い”と“興奮”がごちゃまぜになる感覚。  ラスヴァンの中で、ジェイスへの想いが抑えきれなくなっていく。 (……俺、もう限界かもしれねぇ。  友人として見る。そう決めていたのに。  今は、ほんの少しの距離ですら焦がれるほどに……) ―――  一方、ジェイスも、手を動かしながら集中できていなかった。 (……また見てる……最近、やたらこっちを見てる気がする)  視線を感じるたびに、胸がざわつく。  ラスヴァンの顔を見ようとすると、あの日のふるチンの光景と、風呂場での事件が蘇る。 (あれはどっちも事故だったんだ……  だから、なんか気になっちゃうんだ……。  オレ何考えてんだろう、ほんとに、もう……///)  思い出すと、情けないような、でも少しだけ、胸がきゅっとなる。  不思議な、あたたかいような感情。 (ラスヴァンの気持ちを知りたかっただけなのに……空回りばかりしてる……) ―――  言葉は交わさない。  けれど、ふたりの胸の中では、同じ記憶と想いがぐるぐると渦を巻いていた。 (ジェイスは、俺のことをどう思ってる?) (ラスヴァンは、オレをどう見てたんだろう?)  口には出せない。  だからこそ──感情は、ますます濃くなる。  午後の光は、何も知らない顔をして、ふたりをやさしく包んでいた。

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