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【過去編】 7.初ケンカー俺の本能が暴走してー前半
午後の柔らかな陽が、部屋の窓から差し込んでいた。
ラスヴァンはベッドに横たわり、肩まで毛布をかぶっていた。風呂場で長居したせいか、それとも裸で歩き回ったせいか、身体の芯に残る冷えが抜けない。
寝返りを打つと、ジェイスが床を拭いている姿が目に入った。尻をこちらに向け、リズムよく揺らしながら、せっせと雑巾を動かしている。
(……くそ、目に毒だ)
手のひらで目を覆ってみせるが、指の隙間から覗いてしまう。
ラスヴァンは、わりと性欲が強い方だった。若い頃は身体だけの相手もいたが、今はそういった関係に疲れてしまい、自己処理か鍛錬で発散するようにしていた。
だが、今は怪我のせいで、そのどちらもできない。
風呂場で処理しようとしたときも、心配して様子を見に来たジェイスが不意に現れ――未遂に終わった。
そのせいで、今のラスヴァンは限界寸前だった。
「……くそ、限界だ」
「えっ? 大丈夫?」
思わず漏れた声に、ジェイスが駆け寄ってくる。
「ちょっと寒くて身体がガクガク震えるだけだ、気にすんな」
「もう、それ“ちょっと”じゃないだろ!」
ジェイスは、おでこをラスヴァンの額にコツンと重ねてきた。
「ん〜……やっぱり熱い、熱上がってるって」
(……ち、近い)
キスできそうな距離。血色のいい唇に、食いつきたい衝動をなんとか拳に込めて堪える。
「首の後ろも、触らせて」
「……っ」
柔らかな指先が首筋をなぞり、その感触にゾクリとしながら、ラスヴァンは理性をつなぎとめた。
「汗けっこうかいてるな。身体拭いて、着替えたほうが――」
「今はいい」
「えっ? でも、着替えないと風邪治らないよ?」
少し不機嫌そうな声で返すと、ジェイスは容赦なく服をめくり上げ、濡らした布巾で肌を拭きはじめた。
「大丈夫、すぐ終わるよ〜」
「!!」
ジェイスの指が触れるたびに、そこがじんわりと熱を持っていく気がした。
冷たい布のはずなのに、ラスヴァンの身体は逆にどんどん熱を帯びていく。
(……やめろ、理性がもたなくなるっ!!)
吐息が近い。ラスヴァンは天井のシミを数えて気を逸らしながら、身体が自分の意志とは関係なく反応してしていくのを考えない様に耐え抜いた。
「はい、おしまい。少しはスッキリした?」
「ん」
とだけ返し、ラスヴァンはむすっとした顔で毛布にくるまって目を閉じた。
(……今日のラスヴァン、なんか変だな。そんなに具合悪いのかな。病院が開いたら薬もらいに行かないと)
ジェイスはそう思いながら、桶の水を外へ捨てに行き、戻ってきた――その瞬間。
ギシッ ギシッ
「ふっ、はっ、ふっ、はっ……」
ラスヴァンは部屋の隅で、高速の腕立て伏せを繰り返していた。
「ちょ、ちょっと! なにやってんの!? ダメだってば!!」
「大丈夫だ」
「大丈夫じゃないって! 具合悪いし、怪我にもさわるだろ!」
ジェイスが駆け寄る。
彼の息遣いが聞こえてくる。
本当は自分好みの可愛い顔が近づいてくる。
ラスヴァンの腕を掴み、胸元を押して寝かしつけようとしてくる。布を伝い、彼のぬくもりを感じる。
とても近くにいるジェイスを見ると、
その瞬間、胸元のボタンが取れかけ、うっすらと見えるピンク色の小さな尖。
ブチッ
ラスヴァンの中で、何かが切れた。
ゆっくりと身体を起こし、ジェイスを見る。その瞳には熱と、抑え込んだ衝動が滲んでいた。
「ラ、ラスヴァン?……目が、変だよ? 熱上がった?」
ジェイスの手が、確かめるように頬に触れる。
ラスヴァンはその手首を掴み、声を震わせた。
「……お前を見てるだけで、変になりそうなんだ」
ジェイスが戸惑う間もなく、ラスヴァンは立ち上がり、肩を掴んで――
「えっ……ちょ、ちょっと……!」
ベッドへと押し倒す。
「っうわ!……ど、どうしたの、ラスヴァ、ん!?」
強引なキスが落とされ、ジェイスの身体がビクリと跳ねる。
「……んぅっ……っ、あ……!」
舌が首筋を舐め、シャツの下から手が滑り込む。指先が小さな尖りを探し、つまみ上げる。
「……っあ!///」
自分の出したことのない声が耳に届き、わけもわからず、身体が震えだす。
「ジェイス……」
耳元でささやく低い声。その響きに、ジェイスの身体が跳ねた。
「……っや……やだっ!」
パンツの中に滑り込んできた指先に、ジェイスは震える手でラスヴァンを強く押し返した。
「っ……ラ、ラスヴァン…今日、なんか変だよ…」
か細い声が耳に届き、ラスヴァンの意識がハッと正気に戻る。
「…ジェ、イス……俺……」
手を伸ばそうとすると、ジェイスはビクッと肩を跳ねさせて顔をそむけ、毛布にくるまってしまった。
「……ごめん、悪かった……」
ラスヴァンは頭を抱えながら、ふらつく身体でリュックを掴み、部屋を出た。
バタン――!
ドアが風に煽られて強く閉まる。
静寂の中に、取り残されたジェイスは、ぽつりと呟く。
「……ラスヴァン……?」
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