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【過去編】 15.告白の先にあるもの

「毛布でくるめ! よし、家の中に運ぶぞ!」 「俺が運ぶ」 ダッシュして戻ってきたミハイルと、自分を抱えてくれているラスヴァンが、慌ただしく介抱してくれている。 不謹慎だと感じつつも、ジェイスはラスヴァンの温かい胸の中で、心地よさを感じていた。 ――― 身体も落ち着き、着替えをしてミハイルの大きなベッドで毛布にくるまり、ジェイスはおとなしく横になっていた。 ミハイルはストーブに火をつけて、ハーブティーを入れてくれている。 ラスヴァンはベッドの横に座り、ジェイスの濡れた髪をタオルでそっと拭いていた。 「いきなり、ラスヴァンがあらぬ方向へ走って行って……ジェイスが溺れてたから驚いたぜ」 ミハイルが、部屋の緊張した空気を破るようにポツリと声をこぼした。 「ありがとう、ふたりとも……迷惑かけてごめんね」 八の字眉になりながらジェイスが言うと、ラスヴァンが優しくおでこの前髪を撫で上げた。それが心地よくて、ジェイスはふにゃりと力が抜ける。 「いや、無事でよかった」 ミハイルは優しく笑い、 ラスヴァンは無言で深くうなずいた。そして言葉を続ける。 「あの時……ジェイスの声が聞こえた」 「ラスヴァン……」 「息づかいも聞こえた」 「……え?」 「服を脱いで、布と肌が擦れる音も聞こえて……」 「……ラスヴァン?」 「そのへんにしとけ」 まだ続きそうなラスヴァンの言葉を、ミハイルが真顔で止めた。ジェイスは少し変な顔になった。 だが、 ジェイスがちらっと斜め上を見ると、ラスヴァンが髪を拭き終わり、ジェイスの視線に気づいて、優しく微笑んでくる。 『無意識だった……』 あの時のラスヴァンの言葉を思い出してしまった。 無意識に……キスされたこと。 忘れようと思っていたけど、どこか気持ちの隅に、小さくも存在感のあるものとして残っていた。 気づけば、なだらかでまっすぐな、落ち着いた自然な赤みのラスヴァンの唇を、じーっと見つめていた。 「……どうした?」 ラスヴァンと目が合う。 「っな! なんでもないっ!!」 溺れた後、不謹慎ながら、ジェイスはラスヴァンのかっこよさにドキドキしていた。 死にそうになったところを助けに来たのが、最愛の相手だったから。 ジェイスを見つめるラスヴァンもまた、不謹慎ながらムラムラしていた。 大好きなジェイスの裸を目の前にして、その相手が自分を「好きだ」と言ってきたからだ。 しかし今はジェイスも療養の身、こんなことを考えるのは良くないと、ジェイスの安心した顔を見た後に、 「…少し、馬の様子を見てくる」 と言って、自ら頭を冷やしてくることにして、木こり小屋を出ていった。 (珍しいな……いつもジェイスの傍にいたがるんだが) はて、とラスヴァンの不可解な行動を思考しているミハイルに、ジェイスが呟くように話しかけた。 「ミハイル……オレね……」 「うん? どうした?」 「オレ……ラスヴァンに、好きって言ったんだ」 「っ……お、おお! やったな!」 「う、うん///」 日頃からミハイルには、ラスヴァンの様子を伝えたりしていたが、いつしか気づいた時には恋愛相談になっていた。 「そうか、両想いか。あんな小さかったジェイスが、成長したな……」 ミハイルはしみじみしていた。10年前、初めて幼いジェイスに会った頃から、面倒を見てきた弟のような存在。その初恋の報告に、思わず目頭が熱くなった。 しかし、ジェイスは口ごもりながら続ける。 「でも、両思いじゃなくて……ラスヴァンの気持ちはわからなくて、返事の言葉は“ああ……”て言ってくれただけだったんだ……」 もじもじ八の字眉で話すジェイスだったが―― 「……なんだそりゃ!? あいつ、それで気持ち伝えたつもりかよ!」 ミハイルの声が怒りを含んできたのに気づく。 「あ、違うよ! オレがちゃんと答えを聞かなかったからだよ! ラスヴァンは悪くないし、ちゃんとまた答えを聞くから」 焦りながら困り顔をしていたジェイスを見て、ミハイルは深く息を吹いて気持ちを落ち着かせ、ジェイスに優しく言い聞かせる。 (ラスヴァンはどうせ色々ひとりで悩んでんだろうし、二人のことに俺が入るわけにはいかねえ……だがしかし……心配だ) 「いいか、ジェイス。いくら好きな相手だからって、求められたらすぐ身体を許しちゃダメだぞ。自分を大切にするんだ」 「え! か、身体って、ないない、ないよー///」 ジェイスは照れているが、実際は男同士がキス以外に何をするかも、よくわかっていなかった。 「いや、あいつはどすけべだからな。気をつけろ……お、そうだ、防衛術を教えとくか! さあ、拳で打ってこい!」 「えー、大丈夫だってー!」 そんなことを言いながらも、ジェイスは小さい頃から遊んでもらっていたように、ミハイルの大きな手にパンチを打つ。 ギイッ、と木の扉が軋む音がした。 「……!?」 ラスヴァンが一時的な興奮を解き放ち、戻ってきた時には、ミハイルとジェイスがお互いの手を取り合うように、戯れ合っているように見えた。 「……身体は、もう大丈夫なのか?」 低い声でラスヴァンが尋ねる。 「うん、もう大丈夫だよ! 身体も温かくなってきたし、ありがとう!」 「念のため、医者に行ったほうがいい」 「えー、大丈夫だってぇ〜」 「お、馬車で送るか?」 「いらん!」 ラスヴァンがジェイスの肩を掴んで、木こり小屋を後にした。 (触れたい……ジェイスにもっと触れたい。誰にも……触らせたくない。俺のだという証をつけたい) ラスヴァンの燃え上がるようなオーラが出ている後ろ姿を見て、ミハイルはポツリと呟いた。 「あいつも、やきもち焼きだな……」

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