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【過去編】 16. ちょっとだけ……って言ったのに

 医者の診断は健康に異常なし。  家に帰り、ラスヴァンはおじさんから店を譲り受けたことを伝えると、ジェイスは満面の笑顔で喜んでくれた。 「ほんとに!? よかったね!……あのね、実はその雑貨屋さん、道路挟んでオレの花屋の目の前なんだよ」 「っ!! 本当か!?」 「うん。しょっちゅう会いに行けるね」 「ああ、そうだな」  ラスヴァンも珍しく満面の笑みで、ジェイスもふにゃりとした笑顔で、お互いのことを想い喜び合った。  だが、ラスヴァンはまだジェイスに「好き」の返事を保留にしたままだった。  家の資金も貯めねばならない、店も安定させたい。  そうしないと、ジェイスと一緒になってはいけないような気がしていた。  ラスヴァンは変に頭が固いところがあり、一つの考えに縛られていた。  また、ジェイスは―― (ラスヴァンの肌、綺麗……唇も荒れてないし) (……っあ! また、何考えてんだろ、オレ///)  ラスヴァンとのキスのことばかり夢見ていた。 ―――  その夜、家で穏やかな時間を過ごす。  ふたりきり。 「ラスヴァン、おやすみ」 「あぁ……おやすみ」  いつもの綿のパジャマではなく、少し暑い季節が近づいてきた今、ジェイスは長袖Tシャツに短パンを履いていた。  白い足が出ていて、ラスヴァンには目に毒だった。 (少しくらいなら……少しくらいなら大丈夫だろ? 少しくらいなら触れてもいいはずだ、ジェイスも俺のこと好きなんだから……)  ラスヴァンは、ジェイスに「好き」と言われてから、ムラムラが継続していた。 「ジェイス……」 「ん?」  ちゅっ  ジェイスの腰を軽く引きつけて、ほんの軽いキスをした。  だが、ジェイスの頬が真っ赤に染まり、目は驚きでパチクリしている。 「……ラ、ラスヴァン……?///」 (かわいい……)  ジェイスは、ずっとしてほしかったキスをしてもらえて、ほにゃあっとした、とろけた表情になっている。  その表情が、ラスヴァンの胸にじんわりと熱を灯した。 (……あと、少しだけ……)  ラスヴァンは、そっとその顔を優しく両手で包み込み、髪の毛、額、ほっぺと順にキスを落とす。 (ラスヴァン、優しい……きもちいぃ……///)  ラスヴァンの大きな手の中でとろけてしまいそうになり、胸がきゅううっとなって、思わずジェイスはラスヴァンの背中に手を回して優しく掴んだ。 (うっ……柔らかい………)  ジェイスのふにっとする柔らかい身体が愛おしくて、身体を包み込むように抱きしめる。  そして首筋に鼻をうずめると、ジェイスの香りがいっぱいに広がる。 「……ふふっ……くすぐったぃよ///」  くすりと笑うジェイスに、胸が苦しくなる。  そのまま、衝動にまかせて首筋に唇を押し当てた。 (俺の、証を……)  甘噛みし、強く吸い付くように跡を残すと、ジェイスの首にチリッとしたような小さな痛みが走る。 「っん!?……どうしたの??///」  ぽやんとして、何もわかってないような表情に、ラスヴァンの理性が飛びかける。  気づけば、腰を掴んでいた手のひらが下へと下がっていき、ジェイスの尻に伸びていた。  むにゅ、むにゅ── 「っあ! やだっ///」  思わず悲鳴にも似た驚きの声が上がるが、その反応がまたラスヴァンの本能を刺激した。 (かわいい……柔らかい……)  四ヶ月前、二人は出会い、ラスヴァンははじめてこのあたたかく柔らかな感触を知った。 (俺は……ずっと前からこの感触を探していた気がする)  思わず目を閉じて心地よい感触に集中する。  もっと、この感触を――  短パンと下着の裾を捲り上げ、太ももを擦り上げた先にある、生の柔らかな丸い曲線を撫で上げ、二つの丘の割れ目をなぞると…… ──その直後。  ゴッ。 「ぐっ……!?」  拳が顎を打ち抜いた。  見事なグーパンだった。 ――― 「おはよ、ラスヴァン」 「……あぁ」  ラスヴァンは朝早く起きていたが、元気がなくしょんぼりしながら、リュックに色々と物を詰め込んでいた。 「昨日は、その、ごめんね。殴っちゃって……」 「いや、悪かったのは俺だ」  あのあと、ジェイスは驚いて布団にくるまり寝てしまった。  とりつく島もなく、ラスヴァンは真面目な顔で反省していた。 「今日、お店行くの?」 「……ああ」 「……オレも一緒に行っていい?」  ラスヴァンの手の動きが止まる。  昨日のようなことがないように、ジェイスと距離をあけようと思っていたが、ジェイスの笑顔を見たら、そんな気持ち、すぐに崩れてしまった。 ―――  爽やかな青い空の下。  仲良く歩くふたり。  ジェイスは、二人で店に向かうなんて、なかなかできないことだったから、スキップしたい気持ちだったが、ラスヴァンの顔はどこか険しかった。 「ラスヴァン……」 「……ん?」 「お店、一緒に行くの嫌だった?」 「いや……そんなことはない……」  ピチチと小鳥が、二人の上を飛んでいく。  ジェイスは、ラスヴァンの気持ちがまだ完全にはわかっていなかったが、今は隣にいられることが嬉しかった。  でも、ジェイスも男。多少の欲はある。  二人で歩き、すぐ横には愛しい相手の手。  ジェイスは、心臓が口から飛び出しそうに緊張しながらも――  きゅっ 「!!」  ラスヴァンの無骨な長い指を掴んだ。  思わず固まるラスヴァン。身体がギクシャクして、右手と右足が同時に出る。 「……イヤだった?///」  ジェイスの問いに、ラスヴァンは、ブンブンブンとすごい勢いで首を横に振る。 「よかった……」  ふたりとも、顔が真っ赤だった。  ジェイスは、ラスヴァンに聞かれたらなんて言おうかと、言い訳を探していた。  ラスヴァンは、前屈みになっているのはなんでだ、と聞かれたら、なんて答えようか迷っていた。

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