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【過去編】23.温泉と俺たち

神父下着率の高い一行は、王都への道を歩いていくはずだったが、道を大きくずれて温泉宿に向かっていた。  宿の主人は、ぼろぼろでパンツ一丁だらけの身なりの客をもてなすのは初めてなので戸惑ったが、前の宿の主人の名前を出したら、友人同士らしく泊まらせてくれることになった。  馬は馬小屋があるというので預け、四人は一呼吸つく。 「……あ、そうだ、主人、服なんて売ってないかな?」 「服…ですか?」  ミハイルが自分のパンツ一丁の下着と、仲間のボロボロの服の状態を指して言う。  温泉の主人は頬に手を当てながら、考え込むように答える。 「そうですね――下着やタオルは売ってるんですが、服はなくて。しかもお客さんたち、身体が大きいから〜〜〜……あっ! これなんてどうですか? いろいろなサイズをご用意してますし、一着セットで千ミルでご提供していますよ!」  温泉の主人がカウンターにのせたのは、浴衣と草履だった。 「まさか浴衣とは……」  神父が驚きを隠せない様子でつぶやく。 「でも、何もない下着姿よりいいですよ」  ジェイスが笑顔で答える。  その横で、ラスヴァンがウンウンとうなづいていた。  四人は泊まる部屋に荷物を置き、さっそく温泉へと向かった。 ――― 「ええええ! 浴衣のまま入っちゃいけないの!?」  とんでもない勘違いをしているジェイスの声が、広い脱衣所に響く。 「浴衣は脱いで裸で入る」  ラスヴァンが下心を隠しながら、優しい声でジェイスに説明する。 「んん〜ぅ……温泉には入りたいけどなぁ……」  眉を八の字にして、悩ましげな声を出すジェイス。  ラスヴァンは、もうジェイスの服をぜんぶ脱がしてしまいたかったが、一生懸命我慢していた。 「でも……売店で買ったタオルがあるから……隠していけば大丈夫だよね……」 ―――  ミハイルと神父が洗い場で、丁寧に旅の汚れを落としていた。  ぺたぺたぺた。  そこに、脱衣所の戸を開けて出てきて、ラスヴァンが洗い場で身体を洗いだす。 「……ジェイスは?」  ミハイルが疑問を感じて、ラスヴァンに問う。 「……まだ、なんかやってる」  頭をシャカシャカ泡立てながら、不愉快そうにするラスヴァン。 「そうか……相変わらず恥ずかしがり屋だな」  ミハイルは、カミソリで髭を揃えながら言う。  ラスヴァンはジェイスと一緒にいたかったが、脱ぐのを見られるのが恥ずかしいジェイスに「先に行ってて」と言われてしまい、仕方なく先にやってきたのだった。  身体を簡単に洗うと、風呂にザブンと入り、大きい身体を湯に沈ませる。 「!?」  すると、ラスヴァンの身体にあった傷が塞がっていき、いつの間にか疲れもとれていた。 「傷が治った、疲れもとれた……」  ラスヴァンの独り言のような言葉を、神父が拾い上げる。 「……あの宿屋の主人の言った効能は、そういうことでしたか……にくいことしますね」  身体を洗い終わった神父が、嬉しそうに湯船につかりに行く。ミハイルも後に続く。  そして、傷ついた身体を休ませた。  いつの間にか夕方から夜になる時間になっていて、水色の空に赤と白が混ざった雲が浮かんでいた。三人は思わず上を向き、口を半開きにしながらくつろぐ。  しばらくすると星がぽつぽつ見え始め、それを見ていたミハイルが、ゆっくりと口を開いた。 「……最近ジェイスが、口悪くなくなったな……」 「?」  ミハイルがしみじみと、ラスヴァンに向かって話しかける。 「どういう意味だ?」 「あいつは、ジェイスは……ずっとばあちゃんとふたりで気を張って生きてきたせいか……口が悪いところがあってな」  珍しくラスヴァンは、ミハイルの話に真剣に耳を傾けた。 「俺はそれでジェイスが損をするような気がしてな。気になって何度か注意したんだが……まあ、うまくいかなかった」  ミハイルは温泉の波紋を見つめながら、しみじみと語る。 「……最初会った時は、確かに口が悪い印象があった……だが今は、そんな感じは……」  ラスヴァンは最近のジェイスを思い出す。  甘えるような柔らかい口調のジェイスばかりが思い出されてくる。  ミハイルはラスヴァンの言葉を聞いて、嬉しそうに微笑んだ。 「そうだな、今はなんか可愛くなっちまって……きっとおまえに甘えられているんだろうな」 「!……っ」  ラスヴァンはミハイルの言葉に何か返そうとしたが、顔がほころびそうになり、そのままお湯をすくい、顔を洗ってごまかした。 ―――  軽く身体を洗い、タオル一枚で、ジェイスは浴場へ向かっていた。  大切なところを、タオルで隠そうか、葉っぱで隠そうか、手で隠そうか――長考した結果、結局タオルで隠すことになった。  てちてち てちてち  はやる気持ちを抑えながら、腰に巻いたタオルをぎゅっと押さえて小さく小走りする。  その度に、タオルの端がふわっと揺れた。 「……うわ、真っ白だ……!」  乳白色の湯気が、もわんと広がる。  温泉へ、ジェイスは目を輝かせて素早く駆け出した――その瞬間だった。 ツルッ! 「あっ……!!」  濡れた床に足を滑らせ、 「うわあああっっ!!?」  タオルを押さえる余裕もなく、彼の身体の上をタオルが羽ばたいて飛んでいった。  ジェイスの股間のピンクの愛棒が大胆にお披露目して、身体は前のめりに――  その瞬間──!  大きな手が鎖骨部分を支え、色白の手が足をつかみ、そして下腹部を──  むにゅっ!  褐色の手が、そこを支える。  ジェイスの身体は宙に浮きかけていたが、見事に受け止められ、無傷で湯にジャボンッと沈んだ。  しばしの沈黙の後、 「……ぷはっ」  湯から顔だけ出したジェイスの頭には、タオルだけがちょこんと乗っていた。 飛び込んだ衝撃で、乳白色の湯がふわりと波打ち、湯けむりがやさしく揺れる。 湯気の中にいた仲間たちの頬に、小さなしぶきがはらりと触れた。ミハイルは、顔にかかった湯を手のひらで拭う。 「……大丈夫か? 温泉で走っちゃだめだぞ」  その低くて穏やかな声に、ジェイスは湯の中で肩をすくめる。  ミハイルは大きな手を湯から出し、ぽん、とジェイスの頭を軽く叩いた。 「……ご、ごめんなしゃぃ……///」  ジェイスは、タオルを頭に乗せたまま湯の中に沈んでいき、ぽこぽこと小さな泡が湯面に浮かんだ。 (さっき……オレのをむにゅってされた気が……き、気のせいだよね……///) ――― 「ほあぁ、気持ちいぃ……」  一息ついて温泉にしばし浸かり、くつろぎの声を上げるジェイスだったが……。  湯船に入って、自分の下半身が隠れたことに安心していたものの、上半身は完全に無防備。  まるくて小ぶりな、色づいた乳首が、ぴょこんと湯気の中に浮かび上がっていた。  湯の中で、ぬるり……と、何かが近づいてくる気配。  湯気でよく見えないが、黒い影が、お湯をかき分けるように進んできている。  まるで、沼地のワニのように――音もなく忍び寄る。 (えっ……? な、なんか来てる……!)  ジェイスが身をすくませた瞬間、背後から大きな両手がすっと現れる。 「うわああああ!!」  ピトッ。 「……ここが隠れてない」  ラスヴァンの手が、ジェイスの乳首を左右から、そっと包み込むように隠した。 「ひえ!? な、なにしてんのラスヴァン!?」 「……大事だから隠しとけ」 「え、ええぇ!?///」  ジェイスが湯の中でジタバタ暴れるのを、後ろから静かに受け止めながら、ふたりの身体は密着していく。 (……ラスヴァン、ちか……っ///)  ジェイスは、時々当たるラスヴァンの肌に、胸がドキドキしていた。  ラスヴァンは、ゆっくりと顔を上げ、温泉の中でこちらを見ていたミハイルと神父をギロリと睨みつけた。  そして、低く、野生の獣のように――唸る。 「……見るな……ヴルルゥ……」 「「!?」」  まるで野生の獣のように、湯気の中でラスヴァンは睨みをきかせ、喉を鳴らすように威嚇した。 「ラスヴァン、落ち着け。誰も取らんから、な」 「美味しそうな木苺みたいではありますが、興味はありませんから、ご安心を」 「ヴルルゥッッ!!!」  ラスヴァンは怒り狂った。今にも神父に飛びかかってきそうな勢いだ。 「あれ? なんで怒られたのでしょう?」 「美味しそうな木苺とか言うからだろ!! 落ち着けラスヴァン……」  ミハイルが湯からザバァと立ち上がり、ラスヴァンをなだめようとする。 「おや、こちらの丸太も立派ですね。さすが木こり!」  いよっ! と、妙な掛け声をかける神父。 「酔っ払ってんのか、おまえはっ!!?///」  ちょうどそのとき、他の客が温泉に入ってきた。  そして、ミハイルの股間にぶら下がる“丸太”を目にした  瞬間―――  何も言わずに、そっと戸を閉めて帰っていった。

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