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【過去編】25. 山賊と旅人たち
深い深い森の中。小さな洞窟の前で、山賊を生業にしていた体格のいい男と、身体の小さい少年が会話を交わしていた。脇には、穴の空いた麻袋が落ちている。
「この洞窟に追い込んで……」
そう低く呟いたのは、彼――リト。十七歳、身長は百七十八センチ。山賊。
黒髪は自然にセンターで分かれ、額を少しだけ見せていた。襟足は首元でゆるく跳ねている。
シャープな眉と、二重の鋭い目が印象的な顔立ちをしている。黒いレザージャケットの胸元には、鍛えられた胸筋の輪郭がうっすらと浮かんでいる。
今は丸太に座って、次の強奪作戦を枝で地面に図を描いて考えている。
「っあの!おれ、前から思ってたけど……リトって、難しく考えすぎっすよね。理屈っぽいっすよ!」
そんなリトに苛立ち、目の前で地団駄を踏んだ少年は、ザック。身長は百五十三センチ、十五歳。山賊。
鮮やかな赤毛が目を引く。陽の光を浴びると明るいオレンジに近いその髪は、くしゃくしゃに乱れていた。
そばかすが浮かぶ顔に、オレンジブラウンの大きなつり目が映える。色あせた赤いシャツに破れたジーンズというチープな格好をしていた。
「…あ゛あ?」
ザックの言葉に少しキレ気味になったリトは、目の前のザックを睨みつける。ザックは少しだけびびって、目を伏せたまま言葉を続ける。
「リトは顔はそれなりなのに、口が悪いからモテないんすよ……」
「うるせえな。別にモテなくていいわ。」
持っていた枝をポキッと折りながら、ザックの話を怠そうに聞き始める。
そんなリトの態度にカチンときたザックが、一気に吐き出すように話し始める。
「服のセンスも悪いし! 革ジャン暑そうだし! 協調性ないから嫌われて、仲間いなくなるんすよっ! もうおれとリトの二人しかいないじゃないっすか!!」
「っうるせえ! 俺は寒がりだって言ってんだろっ!」
リトはザックの足元に折った枝を投げつける。
バシッ。
「っ!! す〜ぐキレる〜……」
ザックは縮こまって、ウルウルと下まぶたに涙を溜めるが、手で擦って振り払う。
「作戦はもっと簡単に考えるっす……血は流したくないんすよね?」
「……まあな……めんどくせえことになるしな……」
リトは空を見上げて、深いため息をついた。
「山賊の言葉とは思えないけど……もう二日まともに飯を食べてないっす。だからここは、手っ取り早くおれの腕にまかせてほしいっす。」
小さな手を小さな胸に添えて、誇らしげにザックは得意げな笑顔を作る。
「おまえの腕……小金しか稼げねえしなぁ。なによりおまえ、バカで弱いじゃん?」
そんなリトの態度に、ザックはそばかすのある顔を真っ赤にして怒って、
「ッバ!? キイイ! おれだってやればできるっす! みてらっしゃいっ!」
森の木の枝に捕まって、ザザザッとザックは子猿のように木の枝から枝へとすばやく渡って、森の開けた場所にぬけていった。
「……あの馬鹿、一人で行くなっつうのに……」
ひとりぽつりと残されたリトは、小さく呟いた。
―――
一方その頃、森の中の小道を歩いていた神父浴衣姿のご一行。
温泉地から続いた深い森の小道を抜けると、周りに木が綺麗に並んでいる真っ直ぐな道に出た。時間はもうお昼を回っていた。
ラスヴァンはモンスターに警戒したが、小さく、毛がほわほわした可愛い無害なモンスターが、遠くで草を食べているだけだった。
率先するように、ジェイスとラスヴァンは前を二人で歩いていた。
その少し後ろを、馬に乗った神父と、手綱を引くミハイルが続いている。
やがて、木々の先に白い城の姿がちらりと見えた。その姿は、堂々としていて、まるでこの土地のすべてを見下ろしているようだった。
「あ! あれが王都?」
ジェイスが弾む声で後ろを振り向き、ミハイルに聞く。
「そうだ。もう一日かかるから、どこかで休まなきゃならねえがな。」
ミハイルが言った言葉に、ラスヴァンは人知れずため息をつき、リュックの紐を強く握った。
(早く金を手に入れねえと……それで、俺自身安定したら、ジェイスに思いを伝えねえと……)
隣をぽてぽて歩いているジェイスの顔を見ると、ジェイスはニッコリ微笑み返してくる。
(くそっ、早くしねえと……こんなに可愛いんだ、誰かにとられちまう……)
ラスヴァンはとにかく焦っていた。
そんな焦る気持ちをミハイルにぶつける。
「ハムエル、今日中に王都に着かねえか?」
「ハムエルじゃねえ、ミハエルだ! どう頑張ってもあと一日はかかる。」
「……チェッ」
「チェッておまえなぁ……」
そんなミハイルの言葉を突っぱねて、プンッ!と前を向くラスヴァンに、ミハイルは「しょうがねえ奴だ」とため息をついたが、二人のやりとりを見て、ジェイスは笑っていた。
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