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【過去編】29.山賊vs野獣のような男ー前半

「ちょっ、誰が変態おじさんだっ!!」  ミハイルがザックの腰を右腕で抱え、落ち着かせようとしているところ、ザックは完全に誤解し、 「うわああ!変態ー!!」と叫びながら、ミハイルの腕の中で暴れまくり、ガブリと手に噛みつく。 「いてぇっ! 噛みついた!!  だから“ママ”ってのは誤解だってっ、言葉のあやで―――」  ザザアッ。  ギャイギャイと騒ぐ中、森の奥から――  リトが飛び出してくる! (……変態じじいは、あいつか!)  鋭い視線でミハイルを見据え、  腰のポーチから、鉄製の鋭いスパイクが四本付いたナックルダスターを取り出して装備した。  そして、ミハイルに向かって飛びかかり、拳を振る。 「人の弟分になにしてやがんだ、てめえええっ!!  その時、黒い影がミハイルの前に飛び出した。  ガギイイン!! 「―――っ!」  リトの拳を、ラスヴァンがサバイバルナイフをクロスさせて受け止めたのだ。 「……チッ!」 「…………」  リトとラスヴァンは睨み合った。  ラスヴァンが次の攻撃をしようと腕を後ろに引いた時、リトはバク転をして後ろに飛び、距離を取る。  そして前に手をかざし、ラスヴァンに「一旦戦いを止めろ」と合図をする。  ラスヴァンもリトの合図に気づき、ミハイルの後ろにいたジェイスを、安全な場所へ移動させる。 「あ〜……そこの子猿、俺のなんだ。返してくれねえか」  リトの指は、オレンジ色の頭のザックを指し示す。 「リト〜!助けに来てくれたんすね〜!」  ザックは目をウルウルさせながら、リトを見返す。 「いいから早く来い、バカ」  ザックはミハイルの腕の中で身体を捻り、すぽん! と抜けてリトの方へ走り出す。 「ま、待ってくれ!  俺たちはザック君を保護しようとしただけなんだ。それが言葉のあやで誤解を与えてしまった。 それに見たところ、君だって未成年だろう? 一緒に来てくれないか。絶対悪いようにはしないから…!」  ミハイルは必死にリトを説得しようとした。 「保護? そんなもんいらねえよ。俺らは俺らで生きてんだ」  リトの突き刺すような言葉と、氷のような視線に、ミハイルはとりつく島もなく、俯きため息をついた。 「リト〜!」  ザックがリトに抱きつき、リトはザックの背中をポンと軽く叩き、無事を確かめた。  これでリトたちは去るはずだった―――。  しかし、どこからかいい匂いがする。漂う香ばしい匂い……おそらく、あの鍋だ。  二日間ろくに飯を食べていないリトに、ポトフの匂いは強烈だった。  しかし、食べさせてくれとも言えない。  ミハイルがその視線に気づき、また優しく声をかける。 「もう、保護するとは言わない。腹が減ってるなら食って行ったらどうだ?」  ミハイルはニコリと穏やかな笑みを浮かべるが、その余裕のある態度が、リトの苛立ちを上昇させた。 「うるせえ! バインバインおやじ! 黙ってろっ!」 「バ、バインバインおやじ!?」 「……胸のことかなぁ?」  ジェイスが小首を傾けて小さくつぶやき、ミハイルは思わず胸を隠した。  リトは空腹の苛立ちが限界にきて、悪態ついてやりたい気分だった。  そんな時、さっき自分の拳を止めた気に食わない男が、言葉を発した金髪の男の腰に、手を当てていることにリトは気づいた。 「そういうことか……」と、片方の口角を上げ、  普段は口にしない言葉を、リトは当てつけに強く言い放った。 「保護とか言うなら、そこの金髪の可愛い顔したにいちゃんくれねえか。いい金で売れそうだ」  リトが拳にはめたナックルダスターで、ジェイスを指す。  その言葉と態度は、ラスヴァンを怒らせるには十分だった。

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