33 / 43

【過去編】31.山賊vs野獣のような男ー後半

※今回は、前半シリアスです。 ※この作品には戦闘・流血を含む暴力的な表現があります。苦手な方はご注意ください。 ――― ラスヴァンの言葉に、リトは却って逆上してしまった。 「なに言ってんだ!? こっちの方が優勢だろうがっ!!」  そして――リトはためらいなく、己の太ももへとナックルダスターを振り下ろした。  ザシュッ!! 「っぐう”ぅ”っ!!」  金属が肉を裂く音がして、出血は最小限だが、その激痛がリトの意識を現実へと引き戻す。  足がふらつき、吐きそうになりながらも、リトはなおも鋭い視線を向けていた。  ラスヴァンは、ついその動作に気を取られてしまった。  リトはその一瞬の隙を見逃さなかった。  素早くラスヴァンの背後に回り、がっちりとラスヴァンを両腕で羽交い締めにしたのだ。 「ぐっ……!!」  その瞬間、ラスヴァンがサバイバルナイフを落としてしまう。  リトのナックルダスターを振るうその腕には、確かな男の腕力があった。  硬く締まった筋肉が、ラスヴァンの首を容赦なく締め上げる。 「ふぐっ……!!」  呼吸が詰まり、視界がかすむ。  腕力では劣らないはずのラスヴァンも、まさかの奇襲に動きを封じられていた。  そんな中、リトは歯を食いしばりながら、また余計な一言を放った。 「お前こそ、あそこの可愛いにいちゃんに、さよならの準備でもしといたらどうだ!?」  その言葉を聞いた瞬間、ラスヴァンの中で“何か”が爆ぜた。  ラスヴァンの眼に、鋭い光が宿る。  次の瞬間、ラスヴァンはリトの両腕を掴み――  そのまま勢いよく、前方へと身体を倒し込んだ!  バァンッ!!!  背負い投げ。  自らの首を枷にし、首ごと相手を振り飛ばすという荒技に、ラスヴァンは出た。 「っぐあ”あ”っ!!」  リトの身体が地面に激しく叩きつけられ、砂埃が舞う。  仰向けに倒れ込むリト。 「……ゲホッ……」  喉を押さえながら、リトを睨みつけるラスヴァン。  ラスヴァンはふらつきながら、一時的に動けなくなったリトに、じりじりとにじり寄った。  呼び起こされた野獣のような本能のまま、サバイバルナイフを拾い上げ、その刃先を仰向けのリトの顔面に向けようとした――その瞬間。 「ラスヴァン、だめーっ!!」  ジェイスの叫び声が響いた。  ミハイルに押さえられながらも、ラスヴァンの元へ駆け寄りたくて必死に止めようとするその声に、ラスヴァンの手がぴたりと止まる。 「はっ! くそっ……俺はまたっ……はあ……」  激情に揺れる瞳に、ジェイスの声で少しずつ光が戻り始める。  その隙に、リトは呻き声を上げながら、鈍い動きで地面を転がり、打ちつけた背中を庇ってラスヴァンと距離を取った。  二人とも呼吸は荒く、急所狙いの研ぎ澄まされた戦いをしていたため、集中力にも体力にも限界がきていた。  リトは四つん這いになり、ラスヴァンは片膝をついて対峙する。  呼吸を乱しながらも、視線を逸らすことはなかった。  そんな戦いの静寂を破ったのは、ジェイスの柔らかい声だった。  ジェイスはミハイルの腕を掴み、懇願するように訴える。 「ミハイル……止められないかな?」  だが、ミハイルは腕を組み、淡々と言った。 「俺は、あいつらのスピードにはついていけねえ。巻き込まれたら……細切れチャーシューになっちまう」 「ぷっ……細切れチャーシュー……!」  その一言に、神父が思わず吹き出す。  ジェイスはミハイルをスルーして、今度は神父に言う。 「神父様……あの、魔法でなんとかなりませんか?」  ジェイスがうるうるした目で頼み込んでくる。  神父はしばし考え、 「……私があの二人の間に、魔法で竜巻を発生させるとしたら、二人とも一瞬で空に吹っ飛び、その後地面に叩きつけられますが、よろしいですか?」  淡々と真面目に言った。 「よ、よろしくないです!」  ジェイスは頭をブンブンと左右に振りながら、全力で否定した。 「でも、じゃあ、どうしよう……オレ、何とかできないかな……」  眉を寄せ、不安な顔で髪を手でくしゃくしゃにするジェイス。  そこに、神父が淡々と分析する。 「しかし、両者ともに機会をうかがっています。――次で、今まで狙っていない急所を狙い、血を流さず勝敗が決まるでしょう」  その冷静な言葉に、場の空気が引き締まる。 「え? どういうことですか?」  戦いのことに詳しくないジェイスが首を傾げると、ミハイルと神父が同時に口を開く。 「「だから――金的。」」 「き、金的って……え!? あの、リトってこの武器で殴ったら……ラスヴァンのア、アレが潰れちゃいますよ!?」  ジェイスはあわあわ震えながら言う。 「……ああ、男の戦いだ」  ミハイルは遠い目をして、静かに頷いた。 「男の戦いだ……じゃなくて! とにかく止めなきゃ!!!」  ジェイスは叫んだ。  そして少し考えた後、一つの答えが導かれた。 「ジェイス!? どこ行くんだ??」  ミハイルの問いに答える間もなく、ジェイスは全力でダッシュ。  道の横に広がる草場へ向かう。 「たしか、ピンク色の……あ、あった!!」  隅っこに生える草を、片っ端から引っこ抜いていく。  数分後―― 「あったよ!!」  ピンク色の線が入った葉を、ジェイスは山のように両手に抱えて戻ってきた。  髪の毛や服にまで葉がくっついており、懸命に探していたのがうかがえる。 「それはなんですか?」  神父が葉を覗き込み、ミハイルの大鍋を借りてそれを入れ、焚き火にかけながらジェイスが答える。 「ネムネム草です。これをお湯に入れて湯気を吸うと、良い眠りが取れるんです。お年寄りに使ったりする、作用が弱い草なんですが……これだけあれば、あの二人も眠ってくれると思うんです……多分」 「なるほど、あの二人を眠らせて争いをやめさせるんだな」 「確かに、これ以上戦わせても、痛手を受けるだけですからね」 「はい、もう十分戦ったと思うから……」  鍋から甘い香りの湯気が立ちのぼる。  ジェイスは、なぜかミハイルが持っていたウチワを使って、その湯気をラスヴァンとリトに向かってパタパタと扇いだ。  パタパタパタパタパタ!!!!!!!! 「お願い……もうやめて……二人とも……!!」  ジェイスは心から願った。 「ん……この匂いは……」  いち早く気づいたのは、鼻の利くラスヴァンだった。  眉がピクッと動き、動作が止まる。 「っ……なんだこの臭い……まさか!?」  勘のいいリトもジェイスの行動に気づき、顔をしかめて煙を避けようとするが、すでに瞼が重くなっていた。  パタパタパタパタパタパタパタパタ!!  ジェイスは必死だった。  地味だけど、確実に愛のある戦い。 「もう……だれも傷ついてほしくないんだっ!」  焚き火の熱にあてられ、涙と汗を流しながら、叫ぶように言った。  ――そして。  バタッ ドサッッ  二人の男は、その場にくずれ落ちた。  まるで演出されたかのような、見事な同時昏倒。 「……決着ついたな……」  ミハイルがぽつりとつぶやき、 「よくがんばりました。平和的解決ですね」  神父がパチパチと拍手を送った。  ジェイスは肩で息をしながら、あどけない顔で眠る二人に近づき、つぶやく。 「おやすみ……ふたりとも。夢の中では仲良くね……」  そして、なぜかザックも「グガ〜」と道の真ん中で眠っていた。

ともだちにシェアしよう!