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【過去編】32.勝負の後で
リトとザックが起きると、上半身が縄で縛られていた。
「くそ、なんで…」
「ムキーイイッ!」
地面には布が引かれていて、その上で、抗うリトと、子猿のように暴れるザック。
ラスヴァンとリトが戦った後、ミハイルがリトが飛び出してきた森の周辺を調べに行くと、二人の荷物らしきものが見つかった。
そこにはジェイスを襲った手作りの矢が置いてあり、ザックとリトが以前に会った山賊だと気づいた。
ミハイルはキャンプに帰ると、その事を神父とジェイスに話した。
「早く解けっ!」
リトがイラつきながら、近くにいたジェイスを睨みつけて言うが、ジェイスは優しい声でリトに向かって語りかけた。
「ごめんね、今は縄解いてあげられないんだ。ここにいるみんなで話し合って、やっぱり君たちは危なっかしいから、保護しようって決めたんだ。無理にでも…!」
「っんだそれ、ふざけんな!!」
「キイー! わけがわからないっすー!」
ギャイギャイと声を張り上げ、リトとザックは騒いでいたが、ジェイスは固く決心した顔をして、動じなかった。
そして、ラスヴァンも縛られていた。
「ジェイスなんで…」
「ごめんね、ラスヴァン。リト君と顔を合わせたら、またぶつかる気がして、とりあえず縛っといた方がいいって、皆んなで決めたんだ」
みんなとは、ミハイル、神父、ジェイスのことだ。三人は固く決心をした、キリッとした表情をしていた。
ラスヴァンとリトは、目があったが、二人とも「フン!ッ」と鼻息を吐き出してそっぽを向いた。
―――
「あ、あとね、旅の業者さんが通りすがったから、服買ったんだよ。はい、ラスヴァンの分。あと、大切なリュックも置いておくね」
服は黒のTシャツと、ジーンズ、靴下、ブーツだった。
「ありがとう…ジェイス。金はあとで払う。あと着替えさせてくれるか?」
ラスヴァンはジェイスが「な、何言ってるの〜ラスヴァンたらぁ///」と言うのを期待していたが、
「あとで、落ち着いたら自分で着替えてね」
ジェイスはラスヴァンを華麗にスルーした。
「…え?」
ショックを受け、目を見開くラスヴァン。
「今やることあるから……はい、リト君口開けて“あーん”して」
ジェイスは、リトを丸太に座らせて、スプーンでポトフをすくいあげ、リトに“あーん”を要求した。それを見たラスヴァンは、顎が外れるほど驚いていた。
「自分で食うから、この縄外せってっ…」
「だーめ、逃げるでしょ。もう少し落ち着くまで縄は外せません」
ジェイスは毅然とした態度で、リトに接する。
「じゃあ、いらねえよ…」
だが、リトはそっぽを向いて、ポトフを拒否する。
「どうして、お腹減ってるでしょ?」
ジェイスが心配そうに問いかけると、リトの腹からは地響きのような音が聞こえる。しかし、リトは視線を動かし、ジェイスの後ろに同じく縄で縛られ転がっているラスヴァンを示す。
「あんたのダンナが、殺しそうな顔で見てくるんだよ」
「だんな?」
ジェイスはきょとんとした顔でラスヴァンを振り返ると、そこには敵意むき出しの凶悪な顔でリトを睨むラスヴァンの姿があった。
「だ、だんなだなんて……そんなんじゃないよぉ…」
まだ、ラスヴァンに告白の返事をもらっていないジェイスは、ハッキリ答えられなかった。
「ジェ、ジェイスッ!?」
しかし、そんなジェイスの心中を知らないラスヴァンは、ジェイスの言葉にショックを受けガクッと身体を折って項垂れた。
「ヒヨコ君、私が変わりましょう、ラスヴァン君の治療も終わった事ですし」
「あ! ああ…すみません」
ジェイスは神父に、ポトフが入った皿とスプーンを渡した。
「ジェイス…」
「ラスヴァン治ってよかったね」
ジェイスが、ラスヴァンの元へ来て、怪我をしたふくらはぎの傷が治っているのを確認する。
「ジェイス…後生だ…」
「ん?」
ラスヴァンが真剣な顔をしている事に気づき、ジェイスはラスヴァンを丸太に寄りかからせてあげて、話を聞いた。
「どうしたの?」
「俺にも……“あーん”してくれ」
「え? ラスヴァンさっき食べたでしょ!?」
「頼む…膝枕でも良いんだ……」
「それ、食欲じゃないじゃん!!」
その後もラスヴァンは、ジェイスの太ももに頬擦りしたりして、いろいろな事を懇願していた。
―――
リトが治療と食事を終わらせると、全体的に和やかな雰囲気になった。
そこで神父が語りだす―――
「とりあえず、孤児院に向かいましょう。あそこは教会本部の隣で、私も知り合いがいます。君たちもそれなら少しは安心できると思います」
神父がリトとザックに優しく話しかけるが、
「っなんで、あんたみたいな弱っちそうな奴の言う事きかなきゃいけないっすか!」
ザックが噛み付くように言い、
「俺は自分より弱い奴には、従いたくねえ」
リトも吐き捨てるように言う。
ミハイルとジェイスは目を伏せた。
「私が弱い?」
神父が手袋を外しながら、笑顔で答えた。
近くの大きな岩に神父は手を伸ばし、
手のひらの魔法陣から火の玉をぶっぱなす。
ドゴオオオオンッッ!!!
一瞬にして大きな岩は砕け散る。
「…………チビッタッス」
「…………っ!?」
ジーンズの股のあたりに染みを作るザックと、風圧で髪が乱れ何も答えられなくなるリト。
神父が手袋をはめながら淡々と語る。
「魔法です。君たちも、聞いたことくらいはあるでしょう。これでも、私はまだまだ未熟なほうです。世の中には静かに暮らしている強者もいるんですよ。」
ザックとリトは、顔を合わせた後、しぶしぶながらも神父たちについて行くことにした。
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