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【過去編】34. その匂い、誰の?

一行は、夕方になると夕食を取ることにした。  ミハイルは焚き火をしながら、温泉地で販売していた米や野菜を使って飯盒でご飯を炊き、川で取った魚を串に刺して焚き火にかけていた。 「やけどに気をつけろよ」  ミハイルが横を見て、神父に言う。 「わかってます。アチッ!」  神父は不器用な手つきで、じゃが芋を濡れた新聞紙に包んで焚き火に直接入れていた。  ミハイルが作った休憩所では、リトが地面に足を開いて座り、川で遊び疲れたザックは、裸のままリトの太ももに顔を乗っけて寝ていた。その上には革ジャンがかけられている。  ラスヴァンとジェイスは、焚き火の脇にある大きな木に寄りかかり、座って話をしていた。 「ラスヴァン、ご飯作り手伝わなくていいの?」  ジェイスが何か言って、 「朝作る…」  言葉を返す、他愛ない時間だった。  しかし―――  ジェイスには、別に気になることがあった。  先程からリトとよく目が合うのだ。だが、リトは目が合うとすぐに逸らしてしまう。もしかしたら自分に用があるのかもと悩んだが、ラスヴァンに相談すると、また二人が喧嘩になりそうな気がして、言えなかった。 「ちょっと野暮用」  そうラスヴァンが言って、森の中に消えていった。そう言う時は、だいたいトイレだった。 (今だ―――)  リトは動いた。ラスヴァンが用を足しに行った隙を見計らい、素早く河岸の滑る場所を急いで歩く。 「なあ…」  ツルッ!  リトはジェイスの前に来て話しかけようとしたが、勢い余って足元が前のめりに滑り、 「うおっ――!?」  ドンッ!! 「うわっ!?」  木に寄りかかっていたジェイスに、思わず壁ドンならぬ、“木ドン”をしてしまった。  リトはジェイスの顔の横にある木に手を置き、ひざまづくような体勢になり、少し上からジェイスを見下ろす形になった。 「び、びっくりした!……どうしたの?」 リトの目が泳いだ。その表情は、どこか子供っぽく見えた。 「…あ……んと……」  ジェイスの青い綺麗な瞳が、リトを見上げる。  リトは長いまつ毛を伏せ、目を逸らしながら、小さな声で呟くように言った。 「…こ、この間は悪かった。あんたのことを『売る』なんて言って……頭に血が昇ってた…」  ジェイスの心に、ジワッと暖かさが広がっていく。 「…大丈夫、気にしてないよ」  ジェイスが優しく微笑んで言うと、 「……そうか……それだけだ」  リトは短い言葉を言って立ち上がり、滑る河岸を滑りながら帰っていった。  ラスヴァンが戻ってきて、 「なんか小僧の匂いがする。なんでだ?」  と、ジェイスの髪や服を鼻でクンクン嗅いでいたが、ジェイスは先程あったことをラスヴァンには伝えず、ただ微笑んでいた。 「リト君って、悪い子じゃないかも…」  ジェイスがふとラスヴァンに言う。 「…俺たち四人の大人に向かって、一人で仲間を助けにきた。悪いやつじゃない…」  ラスヴァンはそう言った後、 「生意気だけどな」  と、面白くなさそうに言った。  ジェイスはそんな風に言うラスヴァンの顔を、愛おしそうに見つめる。 (ラスヴァンとリト君、少し似てる。でもリト君の方が硬派っぽくて……ラスヴァンは、す、すけべ……) 「アハハ」  ジェイスは胸の内を笑ってごまかした。 「ん?どうした、どうした?」  ジェイスが急に笑いだしたので、ラスヴァンは驚いて、ジェイスの隣にくっついてジェイスの顔を覗き込んだ。  ジェイスはその体温が心地よく感じて、ラスヴァンの肩にコテンと頭を預けた。 ―――  みんなが夜寝た後、ザックがモソモソと起きる。身体に掛けてある毛布からは、コーヒーの匂いがした。 「お前の分、とってあるってよ」  リトは、葉っぱに乗っている焼き魚と、焼いた芋とご飯をザックに渡す。 「ありがとう…す」 「オレが作ったんじゃねえけどな」  魚にかぶりついたが、噛んでもうまく飲み込めなかった。 「…リト…この人たち、優しいっすよね……変態おじさんじゃなかったし…ご飯くれるし…」 「餌付けされてんじゃねえよ」  小さい肩を、大きな腕が押すと、「ひひ」とザックは笑う。  ご飯を平らげた後、ザックは、プシュッと小さなくしゃみをした。川で洗った服はまだ乾いていないようで、毛布を身体に巻き直す。 「この人、あたたかそうっす」  ザックがミハイルの雄っぱいを、小さな手のひらでペチペチと叩き、柔らかさを確認する。 「リト、ここで一緒に寝るっすよ!」 「いや…俺はいい」  リトは顔をしかめ、苦虫を噛み潰したような顔をした。  ザックは、ミハイルの雄っぱいにバインと顔をつけると、一瞬で眠りの世界へと吸い込まれていった。  リトは、そんなザックを複雑そうな顔で見つめ、眠っている周りの顔を一人一人眺めた後、星空を見て、眠れない夜を過ごした。

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