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【過去編】35. 甘噛み
―――翌朝
ラスヴァンは、パンにチーズと目玉焼きをのせた朝食を作り、みんなが起きる前に葉っぱに乗せて置いておく。その後、川辺に向かった。
「ラスヴァン、いつも髭剃ってるね」
川の水面で顔を見ながら、小さなサバイバルナイフで顎髭を剃るラスヴァンの横に、ジェイスが寝癖頭でチョコンと座り話しかける。
「ああ、毛量は少ないが、けっこう太いのが生えてくるからな」
ラスヴァンはジェイスに話しかけられて、嬉しそうに鼻歌を歌いながら髭を剃る。
「そうなんだ…オレ、あまり生えてこないんだよね。産毛みたいなのしか…」
水面をぼうと見ながら、ジェイスは手持ち無沙汰に話す。ラスヴァンは手を止め、そんなジェイスの顔を覗き込む。
「……どれ、見せてみろ」
大きなラスヴァンの手が、ジェイスの顎を優しく触り、くすぐる。
「くすぐったいよ〜! ならラスヴァンも触らせて〜!」
「ああ…」
ラスヴァンはジェイスの柔らかい手を持ち、自分の顎に触らせる。
「……チクチクしてる…」
「ん………」
ラスヴァンは、近くにあるジェイスのピンク色の柔らかそうな唇から目が離せなくなった。
「ジェイス、こっち…」
「え…?」
(…な、なに…? どこいくの?)
ラスヴァンがジェイスの指先をひっぱり、木の影まで連れて行き、背を木にもたれさせる。
不安な顔をして、上目遣いでじっとラスヴァンを見上げるジェイス。
「大丈夫だ」
ラスヴァンは優しく丸い頭を撫でた後、片方の手でジェイスの顎を上に向けてキスをする。
「ん……///」
いつも触れるだけの優しいキス。ジェイスはそのキスしか知らなかったが、今日は下唇をなぞるように舐められて、ビクッと身体が跳ねる。
「ラシュバ……ん……んっ!?」
口の中に舌が入ってきても、ラスヴァンの舌だと気づくのに数秒かかった。
それはジェイスの舌の横を舐めていたかと思うと、ラスヴァンは顔の角度を変え、今度は反対側を舐めて、優しく舌先を吸ってきた。
「んっ……ん、んん///」
味わわれているような感覚を覚えながら、ジェイスは息継ぎできない苦しさに戸惑い、
(……息ができないぃ……)
ガリッ
「―――ッ!」
思わずラスヴァンの舌を噛んでしまった。
「あっ!! ラスヴァンの舌が! ご、ごめんね!」
ラスヴァンの口から覗く舌には、赤い血が小さくにじんでいた。
それを見て、ジェイスの目に涙が浮かんだ。
しかし、ラスヴァンは、
「いや、問題ない……怖かったな、悪かった」
と眉を八の字にした後、血のついた舌をぺろりと舐めた。
その仕草が、ジェイスには刺激的すぎて、鼻の奥がつーんとして、頭の中には宇宙が広がった。
ラスヴァンは、すっかり俯いてしまったジェイスの背中を優しくさすり、瞳にキスをして、涙を舐め取った。
その後、力が抜けたように、ジェイスはラスヴァンの胸にぽすんと頭を預けた。
(わかんないよ、ラスヴァン……今のもキスなのかな…好きって思っててくれてるって、信じても……いいのかな)
ジェイスの頭の中で、何もかもが混ざってしまうような縞模様の渦がぐるぐる回っていたが、ラスヴァンの身体から香ってくる匂いとぬくもりが、少しずつ彼を落ち着かせていった。
(……ジェイス、お前の気持ちにはちゃんと答えなきゃいけねぇって分かってる。でも…今は答えられなくて……それでも触れたいと思っちまうんだ……)
ラスヴァンは、自分の胸元にある純情なあたたかさに頬ずりして、心から愛しいと感じていた。
そうして、二人は木の陰で、いつもより深い触れ合いをこっそり楽しんでいる
―――はずだった。
ラスヴァンとジェイスがいる位置から、少し岩で高くなった休憩所では、みんな起きて朝食が始まっていた。
「……なあ、アイツらいつもあんななのか?」
木に隠れているつもりだが、隠れきれていない二人を横目でチラッと見ながら、リトがパンをかじり、不機嫌そうに文句をたれる。
「ええ、いっつもあんなもんですよ」
神父が諦めたような表情で答える。
「早く慣れた方が楽だぞー」
ミハイルが水を配りながら言う。
「え? なんの話っすか? あれってなんすか?」
何もわかっていない、口にパンを頬張っているザック。
「はあ〜お前はほんっとバカザルでいいよな」
リトがザックを軽くデコピンする。
「いた! なんなんすか!」
そんな噂話をされているとは知らず、ラスヴァンはジェイスを優しくぎゅっと抱きしめ、ジェイスもラスヴァンの背中を抱きしめ返して、川辺でこっそり愛を育んでいた。
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