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【過去編】36. マッチョの質問にご用心
旅は道連れ世は情け。
神父一行はリトとザックを加え、再び歩き出した。神父は馬に跨り、その手綱のロープをラスヴァンが持ち、その横にはジェイス。馬の右側にはリト、左側ではミハイルとザックが歩きながら話していた。
「俺たちの名前を教えるな。俺はミハイル、金髪がジェイス、背が高いのがラスヴァン、馬に乗ってるのが神父だよ」
ミハイルがザックに優しく話しかけた。
「よゆーす。ジェイスにいちゃんの名前はもう覚えてるし!」
ザックがクイッと親指を自分に向けて、自信満々に言う。
「じゃあ言ってみな」
ミハイルが合図を送るように、手のひらを見せる。
「えーと……ジェミハル、ライス、ミスヴァン、ピンプ、バッチリ覚えたっす!」
ウインクするザック。
「いやいやいや、まったく覚えてない!ジェイスすらも言えてねえ!」
ミハイルは思った以上のザックのおバカ加減にため息をついたが、ザックの「ひひ」と笑う顔を見たらどうでもよくなり、おでこを撫でた。
ミハイルとザックが笑い合っているのを、リトは少し離れた場所から見ていた。
(……なついちまってんな)
リトは唇を結んで下を向いて歩いた。
―――
王都へ向かう途中。
だいぶ歩き、王都の城が前より近づき、大きく見えるようになっていたが、思った以上の距離でみんな疲れていた。大きな木の下に、休むにはよさそうな涼しい日陰を見つけたので、神父一行はそこで少し休むことにした。
ジェイスとラスヴァンが地面に二枚の布を敷き、みんなその上で水を飲んだり、木の実を食べたりして身体を休める。
しばらくして、みんなが休まった頃を見計らって、ミハイルが胡座で座り、リトとザックの方を向いて口を開いた。
「一つ質問させてくれないか。フィレーナ孤児院の、どんなところが合わなかったのかな? 良かったら教えてくれないか」
ミハイルの問いに、リトとザックは固く口を閉じていた。
(よっぽど嫌なことがあったのか……?)
ミハイルは髭に手を当てて、今度は言葉をさらによく選んでから言った。
「君たちが嫌なら、孤児院には戻さないよ」
「ミハイルさん……」
ミハイルの言葉に、神父は心配そうな顔をする。
「嫌なら仕方ないだろう……」
ミハイルは決して揺るがない表情で言った。
「ただ、相手側に嫌なことをされたのなら、俺が伝えて、二度と同じことが起きないようにしたいと思っている」
ミハイルは、ザックを孤児院に預けるとき、なるべく評判の良い場所を選んだつもりだった。王都のフィレーナ孤児院は、とくに教育や保護の評判も良く、安心できる施設だと思っていた。
しかし、リトとザックが馴染めず抜け出してきたのなら、何かいじめでもあったのかと気になっていたのだ。
「……あそこは、ある一定の年齢になると……」
ザックは言葉を溜めてから口を開く。ミハイルは真面目な顔で、黙ってその言葉に耳を傾けた。
「勉強をさせようとするっす! 最悪だったっすよ!」
「…………ん?」
ミハイルは目をまんまるくして固まった。リトが続けて、激しく言い放った。
「そう、あと“ふれあい会”とかあって、お互いに無理やり仲良くさせようとするしな!」
リトは眉間に皺を寄せて、不満を吐き出す。その横では神父が唇に手を当て、一考している。
「それに野菜を食べろとか言ってくるっす!」
ザックが吐き捨てるように続けた。
「ダサすぎだぜ、誕生日会なんてクソくらえだ!」
リトは拳でドンッ!と地面を殴り、負けじと不満をぶつける。
ミハイルの頭の中は
「ん?」 「え?」
と困惑だらけだったが、
隣の神父が淡々と――
「なんだ、君たち、ただの不良ですか」
と口にしてはいけない一言を言ってしまう。その鋭すぎる指摘に、ザックは
「ち、違うっすよ!」
と反発し、リトは
「不良なんかと一緒にすんな!」
とやいのやいの騒ぎ出す。
そんな二人の言葉をスルーしながら、神父は語り続ける。
「王都のフィレーナ孤児院といえば、教育熱心で、お互いに思いやり、自立のできる子どもを育てている……そういう方針ですから、馴染めないという話が、少し引っかかっていたんですよ」
神父が静かに言い放つと、ザックとリトはますますムキになって反論しようとする。
しかし、先ほどまで頭を抱えていたミハイルが、大人しく落ち着き、何とも言えない微笑みで言い放った。
「……君たち、フィレーナ孤児院に帰りなさい」
―――
その間、ラスヴァンとジェイスは森へ少し入り、木漏れ日の中で一本の太い枝から垂れ下がったブランコを見つけた。
「わ……! ラスヴァン、あれ見て……!」
ジェイスがぱぁっと目を輝かせる。
「……乗ってみるか?」
「うん!」
それは小さなブランコ。紐もとても短く、どう見ても子どもサイズだったが、ジェイスは乗ってみた。乗る板から尻がはみ出していて、「むちむちだな」と、ラスヴァンは言いかけたが、お口をチャックした。
キャッキャと笑い合いながら、ラスヴァンが後ろから押してやる。
「わっ、たかっ……! ひゃー!」
「はは、もっといけるか?」
「うん!……え、ちょ、ちょっと待って!? ラスヴァン、それ全力じゃ──」
ラスヴァンがイタズラっぽい笑いをしながら、少し後ろに助走して、渾身の力を込めてジェイスの背中を押すと、その瞬間、ほんのわずかに足元の風が舞った──気がした。
そんな風の力も手伝って、
グルンッ!!
「ぎゃああああっ!! こわいってば! もうーっ!!」
ブランコが一回転する。
ジェイスの可愛らしい悲鳴に、ラスヴァンの口元にも、ふっと優しい笑みが浮かんだ。
ぎゃああの後には、あはは、うふふ。
優しい笑い声が聞こえる森の中。
――それは、王都前の森の、ひとときの静かな憩いの時間。
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