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 【過去編】37. 橋をぶち壊したスライムの叫びと神父のコンプレックス

※シリアスです。 ※物語の都合上、しばらくシリアスが続きますが、またすぐにいつものおバカな内容に戻る予定です。 ―――  やいのやいのと騒ぎながらも、神父一行は王都であるルベルナ王国の前まで辿り着いた。 「うあぁ〜おっきいなぁ〜!」  ジェイスは城壁の上の方を見ながら、つい間抜けな声を出してしまう。リーヴェルでは平屋建てが多いため、十五メートルもある城壁は新鮮だった。 「後ろに倒れるぞ」  城の端から端まで、大口を開けて見上げていると、ラスヴァンの大きな手が、ジェイスの丸っこい後頭部をそっと支えた。 「へへへ、倒れるとこだったぁ」  ぽやんと笑うジェイスを見て、ラスヴァンは (可愛い… 結婚したい…)  と思う。  そして、そのための一歩としてジェイスの手を握り、一緒に前へ進む。  王都の大門が間近に見えてくる。  城壁の周りには大きな堀があり、真ん中には立派な橋がかけられ、大門へと続いていた。門の前には門番が二人立っている。 「ラスヴァン、着いたね」  ジェイスは嬉しそうに目を細めて、まっすぐ彼を見た。 「ああ……」  橋に足をかけ、ラスヴァンはイーリファングが入ったリュックの紐を強く掴み直し、ジェイス、そして仲間たちとともに大門へ進もうとした。  しかし――― 「なんか臭い…… ラスヴァン、オナラした?」  ジェイスが鼻をつまみながら、ラスヴァンを見る。 「してない!」  心外だ!と、強く否定するラスヴァン。 「しかし… 確かに臭いな」  鼻の利くラスヴァンが顔を歪め、周囲を見渡す。香り以外に異変はない。 「でしょ〜」  鼻声になりながら、ジェイスもきょろきょろと辺りを見回す。  そのとき、橋を渡ろうとしたラスヴァンは、足元の木と木の間に何かを見つける。  黒い光を放つ大きな塊が、ドロリと移動したのだ。 「っ!! ジェイス、後ろに飛べ!!」 「え?」と目を丸くしたジェイスを、  ラスヴァンはそのまま脇に抱えて橋から飛び降りた。  バキバキバキバキイイイッッ!!  立派な木造の橋が破壊されながら盛り上がっていき、木々は見えない力に耐えられず、ばらばらに砕け飛んだ。  あっという間に橋は崩壊する。  その下から現れたのは、黒くてらてらとした盛り上がった物体。 「あ”ばみ”う”〜がれ”なお”〜!!」  謎の声を上げながら、鼻が曲がるほどの異臭を撒き散らす。  それは上へ上へと盛り上がり、城壁と同じ高さにまで巨大化し、大門を覆うように腕を広げ、旅人たちの入門を妨げた。 「なぜこんなところに巨大スライムが!」 「スライム!? こんな色のスライムは初めて見たぞ」  門番の二人が門前で騒いでいる。 「なんだこれはーーーっ!?」  たまたま城の見回りに来ていた門兵隊長が、馬に乗ったまま道の真ん中で叫び声を上げた。  彼は神父を見つけ、馬から飛び降りて駆け寄る。 「ラウル神父! なぜここに!? いや、もしかして……このスライムは貴方の魔力を嗅ぎつけて現れたのでは?」  門兵隊長は妙に納得したように顎鬚を撫でて言った。  スライムは魔力を好む。肉も消化して食べてしまうが、時間がかかるため、より効率的に摂取できる強い魔力を好む。強力な魔導士のあとをついてくる個体も存在する。 「いえ、私にこれほどの巨大モンスターを惹きつける魔力はありません……」 「え!? では、なぜ現れたのでしょう?」  門兵隊長は馬を遠くに留めたまま、神父の近くへ来ていた。  神父は後ろを振り返りながら、仲間の顔を見渡す。 「ええと……ミハイル、ラスヴァン、ヒヨコ、リト、ザック……」  神父は顔をこわばらせた。 「……なんて事だ、物理しかいない……! やはり私の魔力につられてきたのか……!?」 (今までなぜ気づかなかったのでしょう……魔力のある仲間がいない…… 道中、よく無事に来たものです……)  神父はショックを受けたが、今はそんなことを言っている場合ではなかった。 「みなさん、逃げてください! この敵に物理攻撃は効きません!  有力な魔導士が到着するまで、何とか私がこの場を食い止めます!」  神父が声を張り上げ、仲間たちの前に立ちふさがる。  神父はスライムをまっすぐ睨んだまま、仲間たちと門兵隊長に、物理耐性を高めるシールド魔法をかけた。 「向こうの門番には、魔法が届きませんね……」  声を沈め、神父はぽつりと呟く。 「今のなんすか? 凄いっすね!」  ザックが光った自分の体をきょろきょろと見回している。 「……凄くなんてありません。少し物理攻撃の耐性を上げただけです……  生き返らせることはできないんですよ、私は…」 ―――  神父の頭に昔の記憶が蘇る。 「エメル師匠、なぜ、私には蘇生魔術が使えないのですか?」 「……ラウル」  この会話がされたのは、ラウル神父がまだ十五歳の頃だった。 「この世の魔法は運命に導かれるように、発動できる者が生まれながらに決まっています。  それは仕方ないのです」  ラウルは唇を噛み、師の話を聞いた。 「貴方がすでに沢山の魔法を使いこなしているのは、知っていますよ」  エメルは優しい眼差しをラウルに送る。 「で、ですが…エメル師匠は、敵を弱らせる光魔法も蘇生も、仲間を一斉回復する事もできます……ずるいです」  エメルはいじけているラウルの鼻を、指でチョンと突っついた。ラウルは驚いてキョトン顔をする。 「ないものばかりを見ないで、今目の前にあることも大切になさい。今自分になにができるか」  神父は唇を引き結んで、師エメルの言葉を飲み込んだ。 ――― (今私にできることは、仲間を守る事―― しかし、私一人でどこまでできるか……)  巨大なヘドロスライムを見つめたまま、神父は立ち尽くす。  ザックは光る自分の手のひらをみながら言う。 「この魔法、おれから見れば十分すごいっすよ〜」 「おい、後ろに行くぞ」  ザックの腕を掴みながら、リトは神父の背後へと彼を避難させようとする。 「二人とも気をつけて…… 死なないでくださいね」  思わずこぼれた神父の弱気な言葉。  それを救い上げたのは、 「死んでたまるか」  可愛げなく舌を出して言うリトだった。  その言葉に、神父はふと口元を緩めた。

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