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【過去編】41.それぞれの決意と、静かな涙

※一時的に「死」を思わせる描写がありますが、ハッピーエンドです。 物語の都合上シリアスが続きましたが、これで終わりです。 すぐにいつものおバカ展開に戻ります。 ―――  重厚な装備に身を包んだ、王都で名の知れたイケメン騎士が、ガッシャガッシャと鎧を鳴らしながら、紅いマントを風に翻して城壁の上を全力で駆けてくる。 「申し訳ないっ! 遅くなりました!!」 兵士が後ろから続き、状況を説明した。 「ダリオ騎士団隊長到着しました! 光の魔導士エメル様をお探しになって遅くなったようです。 御二方ともお連れしました!」 背に揺れる赤い布が風に踊り、銀の甲冑は陽光を反射してまばゆく光っていた。  整った顔立ちに短く切り揃えられた銀髪、誠実そうな瞳――それが、王都で名を馳せる騎士団隊長、ダリオだった。  その背後には、細身で美しい顔立ちの男が、静かに付き従っていた。 「ダリオ隊長遅いですよ!」  門兵隊長は深いため息をついた。 「すみません!……それにしても、この状況はなんですか? 城全てが雪景色でしたけど……これも雪ですか? 今夏なのに……」  ダリオは白い美しい雪を手袋の上に受け、眺める。 「いいから! 後で説明しますから、このモンスター倒しちゃってください、邪魔で仕方ないので!」 「あ、はい!」  ダリオは城壁から飛び降り、凍りついたまま動きを止めていたヘドロスライムを、真っ二つにした。  地面に着地すると同時に、剣に炎をまとわせる。 「燃え尽きろ―――疾風斬光・フェンサーアーク!」  回転斬りと共に灼熱の一閃が放たれ―― ジュオオオオ……ッ!!  炎がスライムの胴体に叩き込まれた瞬間、氷と粘液が混ざった不気味な音と共に、 「……ゴボ……ギャァ……ッ!!」  と、うめきとも叫びともつかぬ断末魔が噴き上がり、白い蒸気と熱風が辺りを包み込み、スライムは跡形もなく消えた。 ―――  ダリオが剣についたスライムの粘りを払っていると 「あ、ラウル神父!」  ダリオは見慣れた顔を見つけ、駆け寄った。 「帰ってきていたんですね!」  軽快に駆け寄るダリオに、神父も気づいた。 「ちょうどよかったダリオさん。この子を教会まで連れていってくれませんか? 私では持ち上げられなくて…… 他の皆さんも忙しそうで、私も早急にやらねばならないことがありまして……」  神父は神妙な面持ちで、布に包まれ、草原に静かに横たわるザックの方へ視線を向けた。  ミハイルとジェイスとラスヴァンは、瓦礫で負傷した兵士たちを介抱している。 「はい、わかりました」  ダリオは自分よりひと回り小さいリトを、軽々と抱き上げた。  その瞬間、雪の舞う中、リトが苦しげに瞼を開き、霞んだ視界の先にいるダリオへ口をかすかに開いた。 「……ザックを…… たのむ……」  そう呟くと、リトは片目から一粒の涙をこぼし、再び目を閉じた。 「……わかりました。大丈夫ですよ」  ダリオは優しく答えると、駆け足でリトを教会へと運んでいった。 ――― 「ザック…なにしてんだ?」  リトの声に、ザックが顔だけこちらを向ける。 「この子がモンスター見たいって言うから描いてるっす。ここにはモンスターの本がないから」  ザックの前には、小さな女の子が座り、絵を覗き込んでいた。 「……そうか。じゃあな」 「え? どこ行くっすか?」 「孤児院を出る。仲間たちと――」 「……お、オレも行くっす!」  ―――あの時、俺が声をかけなければ、  お前は、孤児院で上手くやれてたのかもしれねえ。     ラスヴァンと……  強いやつと戦った時、嫌でも思い知った。    俺一人じゃ、ザックを守りきれねえと…… 「リト、先に行ってるっすよ!」 「馬鹿、待て! 先に行くな!」  思わず怒鳴った。 「守れねえだろうが―――!」   ――― 「………ザックッ!!!」  ガアアアアンッ!! 「っ痛いっす!!!」  覗き込んでたザックと起き上がったリト、二人の頭が、ガツンとぶつかりあう。 「……お、おまえ! 死んでなかったのか!?」  リトは幽霊でも見るかのように驚いた。 「死んだっすよ!」 「………………え?」 「ダリオ騎士団隊長て人の知り合いの、光の魔導士さんが、生き返らせてくれたらしいっす」  ザックはいつも通りの笑顔で答える。  しかし――― 「……助かったのは、奇跡に近いです……生き返ると言っても……身体が少しでも腐り始めていたり、損傷が激しい場合はまともに生き返れない場合もあります。  神父は珍しく意気消沈している。  リトは神父の話を聞いて、胸がざわつく。 「じゃあ、危なかったんすね……でもおれ、リトが生きてたんならいいっすよ!」  そう言ってザックは、ひひっと笑ったが、 「……ば、かやろう、余計な事するんじゃねえっ!!」  リトは声を荒げた。 「なんすかその言い方心外っすねえ、リトの事助けて死んだんすよ。感謝してほしいっす!」 ザックは誇らしげに言った。 だが次の瞬間、リトがザックの両腕を強くつかむ。 「リト!?」 「…そんなの、嬉しくねえんだよ、ちゃんと……生きてろ、よ……っ……」  声が震え、最後の言葉は涙に溶けて消えた。 「リト…」 リトはザックの胸に頭をつけて、静かに泣き続けた。 ―――  リトとザックのいる部屋をでて、神父はドアを静かに閉めた。廊下にはミハイルが立っていた。 「大丈夫か? 酷い顔してるぞ?」  廊下の壁にもたれ、心配そうに神父の顔をのぞき込む。  その顔は、真っ白で血の気がなく、目の奥が虚ろだった。 「ミハイルさん……ぐす………ゔぇ……」  不意に、神父の鼻からつるりと垂れる雫。  それを合図にしたように、堪えていた涙が溢れ出した。 「お、おいおい、本当に大丈夫か!? お前いつも無理しすぎなんだよ……俺たちを助けようとして……」  ミハイルが声をかけ終わるより早く、  ぽふん むぎゅうっ  神父がその腰にすがりつき、ミハイルのバインバインの雄っぱいに顔を埋めた。 「お、おい!?///」 「……今だけ……お願いです……ぐすっ……」  神父に似つかわしくない、かすれた弱い声。  その肩は小刻みに震えていた。 「あ、ああ……」  ミハイルは、大きな手で神父の頭にポンポンと優しく触れた。  その手は、ごつく、温かい。 「……ザック君……しななくて……よかった………」  言葉に込められた、張り詰めていた祈り。 「ああ……本当にな、お前のおかげだよ。ありがとう……」  ミハイルは柔らかな微笑で応える。 「……………」  神父は何も答えず、ただ目を閉じて、その体温に包まれていた。  冷えた心が少しずつ解けていくように。

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