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42.王都でデート
ヘドロスライムを倒した後、リトが二日間寝ていた間の出来事。
―――
王都の教会本部に顔が利くラウル神父のおかげで、ラスヴァンとジェイスは空いていた教会の一室をしばらく借りて過ごしていた。
神父が「リトとザックのことはもう心配いりません」と言ったので、ラスヴァンは王都の店やマーケットへ行ってみようとしていた。
「え…一人でいくの?」
「ああ、悪いな。何件か当たりたい店があるんだ」
ラスヴァンは牙宝石、イーリファングを売って大金を得て、安定した生活を手に入れて、早くジェイスに告白の返事を返したかった。
しかし、売買してる時の自分がカッコ悪い気がして、ジェイスとは別行動を取ろうとしていた。
「……ラスヴァンと王都観光するの楽しみにしてたのになぁ」
ジェイスは口をヒヨコのようにとんがらせ、足で地面を蹴っている。
「ジェイス…最近甘えん坊がすぎるな…」
ラスヴァンは、いつもとは違う低い声のトーンで言う。
「あ…ご、ごめんね。ラスヴァンにも都合があるもんね…」
しょぼんとするジェイス。そんなジェイスに近づき、両手のひらを握るラスヴァン。
「だがそこがいい!!」
ラスヴァンが通る声で言い、二人は手を繋いで楽しそうに観光に出掛けていった。
―――
王都には当たり前に同性カップルが自然に生活していて、手を繋いだり、肩を組んだり、腰に手を回したり、あちらこちらでチュッチュッしていた。
(うわぁ…すごいなぁ、みんなイチャイチャしてる///)
ジェイスは、ほっぺを赤くポッポさせて、思わずラスヴァンの手を握る力が強くなる。
それに気づいたラスヴァンは、ジェイスの顔を見て優し気に笑った。
二人が道伝いにまっすぐ歩いていくと、広場の真ん中には大きな立派な勇者の像。
「かっこいいね……昨日見たダリオさんに少し似てるかも。ほら、こうやって飛び上がって回転して――っ」
ジェイスは、ダリオがやっていた必殺技の回転斬りを真似て、失敗してこけた。
「うぅ…///」
恥ずかしさと鈍い小さな痛みから、ジェイスはすぐに立ち上がれなかった。
「大丈夫か?」
ラスヴァンが小さく震えるジェイスのお腹を抱え上げ、立たせてあげた。
「う、うん…大丈夫…///」
両手で拳を作り元気さをアピールするが、ジェイスの顔は耳まで真っ赤になっている。
「ふむ、大体…勇者より俺のがいけてるだろう?」
ラスヴァンは、勇者像を見上げながら腕を組んで言う。
「う、う〜ん…ラスヴァンは、盗賊の親玉みたいだよね」
ジェイスは「ワイルドでカッコいい」という意味を込めて、悪気なく言ったが、
(盗賊の親玉…)
しょんぼりとするラスヴァン。
「あ、違うよ、悪い意味じゃなくて……!? なにこの匂い? いい匂いがする……」
そんな時、とても良い匂いが街の中を帯のように漂いながら、ジェイスの鼻にたどり着く。
周りを見回すと、赤と白の屋根の売店が、細いオレンジ色の物を串に刺して売っている。それからは、ジェイスが嗅いだことがないような、なんとも言えない美味しそうな香りがした。
ジェイスが、ごくりっと生唾をのみ、それから視線を動かさずにじっと見つめる様子を見て、
「フランクフルト食うか?」
と、ラスヴァンが買おうとしてくれる。
「え? ふらんくふると? もしかしてお肉? オレ、はじめて食べる!」
「え?……あ、そうか。リーヴェルは肉ないからな」
「うん」
リーヴェルは、海の幸や山の幸が豊富で、肉を食べる習慣がなかった。どうしても食べたい町人は、王都に行った時に購入するか、取り寄せたりする。
ラスヴァンがフランクフルトを買い、ジェイスの顔の前に持っていく。
「ほら、あーん」
ラスヴァンがそう言うと、ジェイスは照れながらもピンクの舌で舌なめずりして、長いその肉に食いつこうとするが、
「あ〜むっ」
ぷるるんっ!
フランクフルトは、ジェイスをからかうように、左右に身体をくねりと曲げて、逃げてしまう。
「ん〜うまく食べられない…」
ジェイスは、舌を出してフランクフルトの表面についている香ばしい味をチロチロと舐めるが、ラスヴァンはそんなジェイスをニヤニヤ見ていく奴等がいることに気づいた。
(くっ、可愛いと思って見ていたが、そんな目的で見ている奴がいるとは……それじゃあ、俺と同じじゃないか!!)
ラスヴァンは、ジェイスのことを不埒に見ている奴等が自分以外にもいることに怒りを感じ、
「ジェイスだめだ、もっと思い切って歯を立てていくんだ!」
「歯?………」
ガジッ!!
ジェイスは、フランクフルトの先を噛みちぎった。
「あ、美味し〜!」
ジェイスはご満悦だったが、ラスヴァンは思わず渋い顔をして、
「OH!!」
と叫んだ。
周りからも何人か痛々しい「OH…」という声が聞こえてきた。
―――
「あ、これ楽しそうー! ラスヴァンもやろう!」
ボールをぶつけて景品を落とすと、景品がもらえる屋台ゲームを見つける。
ポコッ
ジェイスが投げたボールが景品に当たり、カタリと倒れた。
「わっ! 景品倒れたよ〜おじさん!」
ジェイスが嬉しそうに、景品を指さすが、
「だめだよ〜倒れるだけじゃ、台から落とさないとだめだよ〜」
屋台の親父が意地悪そうに言う。
「え〜……」
しょんぼりするジェイス。そんなジェイスを見ながら、肩を回し、腕をゴキゴキ鳴らしながら、ラスヴァンはズイッと前に出た。
「どれが欲しいんだ?」
「あの、陶器でできた貯金箱!」
ジェイスは貯金箱を指差して言う。
「よし、危ないから後ろに下がってろ」
ラスヴァンはニヤリッと悪い顔をしてから、全力投球した。
ガッシャーーン!!
グワッシャーーン!!
どんどん景品である的を破壊していくラスヴァン。また、ボールが屋台の後ろの壁や天井を貫通する。
「お、お客さん、やめてくれー! 景品と屋台がブッ壊れちまうよー!」
強面になっているラスヴァンの前に、怯えながらも慌てて出てくる親父。
「あ? 十体壊すと、一体もらえるんじゃねえのか?」
「なにその新ルール!?」
屋台の親父は驚愕した。
「まあいい、景品よこせ。陶器の貯金箱」
ラスヴァンは太々しく、手のひらを屋台の親父に向ける。
「あんたが全部ぶっ壊しちまったよー!」
店主は泣き叫ぶように言う。ラスヴァンはしまった、という顔をする。
「…よし。こんだけ遊んでやったんだから、何か景品があってもいいだろ?」
ラスヴァンは「さっさと出せ」とばかりに、屋台の木のカウンターを、拳でダンッと叩いた。
「この上まだ何か取ろうと!?」
店を破壊され、店主は泣きながら、一番小さい景品が沢山入った籠を見せた。
「一つ持っていっていいですよ…」
それを見たラスヴァンは、離れていたジェイスを呼ぶ。
「ジェイス、全部持ってってもいいってよ!」
「あんたの耳どうなってるんだっ!!」
店主は号泣した。
ラスヴァンはまるで盗賊の親玉のようだった。
「それだけでよかったのか?」
ラスヴァンは、ジェイスが嬉しそうに持っている、小さい檜でできたアヒルの木彫りを見て言った。お風呂に入れると香りがでるものだ。
「うん、これも欲しかったの。だってお風呂で使えるんだよ。ありがとう、ラスヴァン!」
柔らかな笑顔を向けるジェイスを見て、ラスヴァンは満足そうにジェイスの肩に手を回す。
「よし、じゃあ今日は一緒に風呂入るか」
「え、入らないよ、なに言ってるの///」
ラスヴァンはしょんぼりした。
―――
いつの間にか空が暗くなっていて、花火が上がった。王都の週末は花火が上がるらしい。
「すごい綺麗〜!!」
初めて見る花火に、ジェイスは空を見ながら駆け寄っていく。
「見ていくか?」
「いいの?」
ジェイスはパァッと花が開いたような表情をして、空いてそうな場所を探して、ちょうど空いていた町のベンチに座る。
「綺麗だね…」
「ああ…」
ラスヴァンはジェイスの顔を見る。花火の光があたり、目はキラキラと輝いていた。
(……可愛い……)
想い人の可愛さを再確認すると、ジェイスの頭を優しく撫でて、首を傾けてキスをしようとした、
しかし――
「……やっ!」
ジェイスがラスヴァンのアゴを、両手の平で押し返す。
「ぐっ!?……なんでだ、どうしたジェイス?」
突然の拒否の姿勢に、ラスヴァンは目を見開いて驚き、ジェイスの顔を覗き込む。
「ん……だって、この間みたいに、苦しくてネチョリってするチュウしようとしたから……」
ジェイスはもじもじしながら、言葉を続ける。
「あれ、息ができないし、なんか怖いから、嫌……いつものがいい///」
ラスヴァンが真面目に話を聞いていると、ディープキスの話だと気づいた。ラスヴァンは、ジェイスに一応説明をしようとしたが、
「あれは、鼻で息を……」
ジェイスの顔を見ると、八の字眉で不安げな上目づかいでジィッとラスヴァンを見ていることに気がついた。
そしてジェイスの背後には……。
『あのチュウ嫌い』という心の文字が見えた。
ラスヴァンは少し考えてから言った。
「ん……ジェイスが苦手ならする必要はねえ。いつものならいいんだな?」
『いつもの』にジェイスはこくんと頷く。
ラスヴァンはジェイスの背中に優しく手を添え、
「……ちゅ///」
優しく触れるだけのキスをする。照れながら目を瞑っているジェイスを見て、
(満足してもらえたみたいだな…)
ラスヴァンも目を瞑り、また優しくキスをした。
空には、不器用な二人の心を描くような花火が、咲きあがった。
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