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47.ふたりで生きていくために
教会本部の風呂は温泉が出ているらしく、神父が「勝手に使っていい」と言ったので、石造りで四人くらい共用で入れそうな風呂に、ラスヴァンとジェイスはやってきた。
はじめはすけべなことを妄想していたラスヴァンだったが、
「あのね、ラスヴァンがお風呂で少しでも元気になれたら……話があるの」
というジェイスの真面目な表情から出る言葉に、ラスヴァンはぶるん棒と共に冷静になった。
話をするために湯をぬるめにし、恥ずかしさからジェイスは早めに、水色乳白の湯に入った。
ラスヴァンは、ジェイスから出る言葉に覚悟しながら服を静かに脱ぎ、湯に身体を沈ませた。二人の距離は人一人分くらい離れている。
二人は無言で湯に浸かり、ジェイスはラスヴァンの身体の力が抜けたのを確認してから、話をしようと決めた。
ラスヴァンが湯でごしごしと顔を洗い、ふぅっと一息ついて、ジェイスの方を見て目が合う。
「……で、話とは?」
ラスヴァンは平静を保つフリをしていたが、胸の奥で動悸が早まっていた。ジェイスの告白の返事も伸ばしてきた。飽きられても仕方ないと思っていた。
ジェイスは、檜のアヒルから勇気をもらうかのように、ぎゅっと手の平で握った後に、小さく口を開いた。
「あのね……ラスヴァンは何でそんなにお金が欲しいの?」
ジェイスは、ラスヴァンが話してくれない金関係のことが、告白の返事を先延ばしにしてきた事と繋がっているような気がしていた。
まっすぐな瞳で見てくるジェイスに、ラスヴァンは口ごもる。
ラスヴァンが金を欲しいのは、リーヴェルに家を買って永住し、ジェイスの側にいるため。
だが、その奥にあったのは、もっと深い理由だった。
ラスヴァンは、孤児として生まれ、金の事に苦労してきた。
もしジェイスと一緒になれても、自分のせいで苦労させてしまうかもしれない、という不安があった。
それで、ジェイスと向き合うことができなかった。
「……雑貨屋、譲ってもらったのに……また旅に出ちゃうの?」
ジェイスはぽつりぽつりと気持ちを言葉にして伝える。
「出ない、俺は……ずっとジェイスのそばにいたくて…」
ラスヴァンは湯から手を出して、髪をかき上げると、雫が頬を伝い、まるで泣いているかのように見えた。
「オレの?……オレ、ラスヴァンがお金持ってなくても、そばにいてほしいよ?
ラスヴァンがお金に困っているなら、オレが稼ぐし……だから、ずっと一緒にいてほしいな……」
ジェイスは唇を小さく震わせながら、長く夢見てきたことを口にしようとしていた。ラスヴァンがずっと自分の家で一緒に暮らしてくれたら……と思っていたのだ。
ジェイスの切なげな表情に気づいたラスヴァンは、そっと彼の髪を撫でた。ジェイスはしがみつくようにラスヴァンの肩に寄ってきた。
(ジェイス…そんな風に思ってくれてたのか……
俺は、いつまでもカッコ悪いな……
ジェイスはすべてさらけ出してくれてんのに)
ラスヴァンは、深くため息をついた後、ジェイスの身体をそっと離して、向き合った。
「ジェイス……愛ってのは色々な形があるが……」
ラスヴァンがたどたどしく話し出す。ジェイスは頷きながら真面目に話を聞いた。
「俺の愛は、一人じゃどうにもできねえ。相手が必要だ」
ラスヴァンは、一呼吸してから続ける。
お風呂の天井からぴちょんと雫が落ちて、間を作る。
「ラスヴァンのその相手が……オレだったらいいのに……」
ジェイスが八の字眉をして、悲しそうに俯く。自己肯定力の高くないジェイスは、どうやら自分のことだと思っていないらしい。
それを見て、ラスヴァンも自分の伝え方が悪かったかと、同じく八の字眉になり、ジェイスの頬に手を伸ばした。
「ジェイス以外に誰がいるんだよ」
そう言うと、ジェイスはやっと顔を上げた。
(……前は思ってた。
オレには金も地位も、何もない。
カッコ悪い自分は、ジェイスには見せたくなかった。
ジェイスのことが眩しすぎて、手を伸ばしちゃいけないって……)
でも、今は違う。
不格好でも、情けなくても――それでもラスヴァンはジェイスの隣にいたいと思った。
そう思わせてくれたのは、ジェイスの存在だった。
「……俺は一緒になったら、お前に金の事で苦労させるんじゃないかと思ってたけど……
ジェイスが言ってくれてわかった。一人で背負うんじゃなくて、二人で支え合ってやっていけばいいって」
ジェイスは小さく瞬きし、ラスヴァンの話を真っ直ぐに聞いていた。
「…ジェイス、好きだよ。ずっと好きだった。これからもそばにいてほしい……ずっと」
ラスヴァンはジェイスの頬を優しく撫でた。包み込むような優しい眼差しに、ジェイスの青い瞳が揺れ、大粒の涙がこぼれ落ちる。
「ラスヴァン、オレもずっと大好き!」
ジェイスはお風呂のお湯がざばんっと揺れるのも気にせず、ラスヴァンに抱きついた。
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