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49.罪と罰
ラスヴァンとジェイスは、教会本部の、昔神父が使っていたという広い部屋にいた。神父が仲間に話をしたいと言うので、部屋で待っていた。
「そうかぁ、鍛冶屋のじいちゃんそんな事言ってたんだ。確かにこの牙立派だよね」
「……あぁ」
一回は諦めかけた夢だったが、ジェイスが「昨日はなんで落ち込んでいたの?」と心配してくれたので、ラスヴァンはイーリファングについて、売れなかったことも含めてすべて話した。
「あの鍛冶屋のじじい、嘘つきやがったのか?……いや、しかし、そんな風には見えなかった」
ラスヴァンの話を聞きながら、ジェイスは真面目な顔で頷き、口を開いた。
「ばあちゃんがね、鍛冶屋のじいちゃんは昔ルベルナ王国の御用達の鍛冶屋だったって言ってた。だから、たぶん本当の話だと思うよ」
ラスヴァンはその話を聞いて、目を見開いた。
「じじいの話の肝心なところを、俺が聞き逃していた可能性があるな…」
ラスヴァンは、口に手を当てて思考する。
「ラスヴァン、嫌じゃなかったらなんだけど……オレとラスヴァンだけじゃ情報が足りないから、仲間にも話を聞いてみたらどうかな?」
「……ふむ」
昔ヴォルクにいた頃は、金に汚い連中を沢山見てきた。情報を渡すことで、金を横取りされることを恐れているのだ。しかし、ラスヴァンは、今の仲間のことを頭に浮かべて考えた。
「……最低限の情報なら、危険は少ないか」
「うんうん!」
ラスヴァンの言葉に、ジェイスはパアァ!と顔を明るくして微笑んだ。
「ふ……」
ラスヴァンはそんなジェイスが可愛くて、頭を優しく撫でた。
―――
しばらくして、みんなが集まってきた。神父は手に資料のような物を持って、窓辺の中央に立ち、口を開く。
「はい、神父、これから大事な話をするので、みなさん、体育座りして聞いてください」
神父の声に、みんな渋々床に尻をつき、膝を抱えて座る。
「孤児院と話してきました。あちら側は、リト君とザック君の悩む心に気づかず、きちんと保護してあげられずに、家出させてしまったことに責任を感じていらっしゃいました」
神父は淡々と話しながらも、リトとザックの方を見て語りかけていく。
「しかし、山賊行為で人様を傷つけ、スリなどで物を盗み、罪を重ねたことはとても悪いことです」
「おい、なあ…まだ子供だろ……」
ミハイルが口に手を当てて小声で言うが、神父は鋭い目つきで睨んだ。ミハイルは驚き肩が跳ね上がる。
「子供だからといって、すべてを許してしまっていいのでしょうか。彼らはやがて大人になります。そして、罪を犯すということは、その子自身が危険な環境に身を置くということでもあるのです」
その言葉を聞いて、ミハイルは俯き、何も言えなくなった。
「―――しかし、」
神父はさっきより大きな声で続ける。ジェイスはまるでミサを聞いているみたいだと思った。
「リト君とザック君がヘドロスライム戦の時に、門番を救出したことに、王様と騎士団団長共に大変感謝しておりました」
(騎士団団長……!?)
その言葉にリトはダリオを思い出し、「げえっ」とした顔をする。神父はリトの表情を気にせず言葉を続ける。
「その為、君たちの罪を今回だけは減罪してくださる事になりました」
ラスヴァンはいつの間にか胡座で座り、肘をついて聞いている。
「また貴方達が山賊行為で襲った人達は、被害届が出ていたので、私とミハイルさんがポケットマネーを出して弁償しました」
リトとザックがミハイルを見る。ミハイルは少し照れくさそうにした。
「そして、被害者は優しい方々だったようで、孤児である貴方達の事情を話したら、
『みんな特に大きな怪我もしてない、金も返ってきた。同じことが二度と起きなければいいっぺよ』
と言って許してくださいました。有難いことです」
神父は、村人Aのモノマネをして話した。
「あと、ミハイルさんはリト君とザック君両方を保護し、養おうとしていたようですが…経済的に二人は無理でしょう」
「そうなんすか!?」
神父の言葉にザックが飛び上がる。
「いや、そんな事はないぞ、ギリいける、心配しなくても大丈夫だ!」
しかし、ミハイルはひどく顔に汗をかいている。
「そこで提案というか、受け入れてもらわないと困るんですが……ザック君は刑罰を受けた後、ミハイルさんと保護観察で一緒に暮らすことになります」
「え……て事は、おれミハイルと暮らせるんすか?」
ザックは頭を傾げる。
「そうです。ミハイルさんが親代わりのママになります」
「やった!」
「ママってなぁ……」
嬉しくも「ママ」という言葉に複雑な顔をしているミハイルに、ザックはドーンドーン!と体当たりをして喜びを表現するが、ふとリトの方を見て動きを止める。
「リトはリトはどうなるんすか? 一緒に暮らせるんすよね、その、たしかヌードルとかいう町で?」
ザックが不安な声を出すが、リトは黙っていた。視線を床に落としながらも、もう逃げられないと悟ったように、拳をゆっくりと握った。どんな裁きでも、受け入れる覚悟はできていた。
「リーヴェルですね。そこで、リト君は、私の魔法使いの弟子として面倒を見ます! もちろん保護観察期間も含まれます」
「…………は?」
リトは思わず大きな声が出た。
「これから、リト君は魔力を持っていると判断されましたので、王都の魔法省にて正式に“魔導士”として登録されることになります」
(意外に事務的だな…)
ミハイルが心の中でツッコむ。
「普通はその後、王都で開催されている魔法教室に通い、試験に合格すると免許皆伝で、国から配布された魔導証と、お仕事と、信頼がいただけるようになります。」
(魔法にもそういう証明書がいる時代か……)
ミハイルは心の中で感心した。
「ちょっと待て、俺は魔導士になるなんて言ってねえ―――」
「話は最後まで聞きなさい」
立ちあがろうとするリトの肩を、神父は手のひらで静かに押さえた。
「ルベルナ王国では、魔法を使えても、魔導証を持っていない人物は、周りから信頼されない危険人物とされます」
『危険人物』という言葉に、リトの背筋が一瞬、強ばった。
「魔法を安全に使えない魔導士は、周りの穏やかに暮らしたい人々にとって、それだけ脅威なのです」
その言葉は、リトの心に突き刺さった。
「そのまま暮らしていると、強制的に地下牢に送られることになります。リト君は、魔法の危険さに身に覚えがあるでしょう?」
「―――ッ!」
神父の鋭い指摘に、リトは、何も言い返せなかった
「しかし、ある程度信頼されていて、魔法教室を開けるレベルの魔導士は、弟子を取ることができます。リト君はその弟子になれば、魔法教室に通っていることと同じになります」
神父は自分の胸に手を置いて、リトをまっすぐ見つめた。
「もしかして、神父様が……?」
ジェイスが思わず声を上げる。
「そうです。私はそれぐらいのレベルの魔導士です。ちなみに教会本部の三百人いる聖職者のなかで、私は十三番目くらいにえらいです」
(微妙……)
得意そうにしている神父とは別に、リトは心の中で悪態をついた。
「しかも、弟子を取ると手当が出ましてね。一緒に暮らす弟子だと、リト君の教育費と生活費がいただけるようになります。これで、ミハイルさんではなく、私がリト君を引き取って、正式な保護者になることができます。
話は以上です」
神父は得意げに話し終わった。
「さて、質問はありますか?」
神父が周りを見回す。
「で、結局、リトは―――」
「さっきザックだけ―――」
リトとザックが同時に質問する。
「意見は挙手してからお願いします!」
張り切っている神父に、リトはだるそうに手を上げた。
「はい、リト君、なんでしょう」
「ザックに刑罰が科せられると言ってたが、当然俺にもあるんだろ?」
リトが指で自分を示して言う。
「ああ、魔導士の説明が中心になってしまい説明し忘れていました。もちろんありますよ」
ため息をついて、
「そっち先に言えよ…」
と小さく呟く。次にザックが、ピーンと手を上げて挙手した。
「はい、ザック君」
神父が手のひらを向けてザックを示す。
「魔導士のことはよくわからなかったんすけど、結局おれと、リトは一緒の町に住めるんすか?」
ザックが心配そうに言うと、神父は、
「はい、禁固刑で、三日間地下牢に入る必要がありますが」
と、優しく微笑んで言った。
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