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50.地下牢

 ラスヴァン、リト、ザックの三人は、横縞模様の囚人服で、手縄をつけられ、牢番に連れられて地下牢への階段を下っていた。 ―――  昨日―――  神父が長い話を終えた後、手元の資料を見直し、ついでのように言った。 「…あ、ラスヴァン君、ヴォルクにいた時スパゲッティ盗んだらしいですね。指名手配されてました。今回のヘドロスライムで門番を助けた功績で減刑されましたが、同じく三日間禁固刑で地下牢行きです」  ラスヴァンはショックを受けた。 「ラスヴァン……なんでスパゲッティ盗んだの?」  ジェイスは潤んだ瞳と震える手で、ラスヴァンの手を握る。 「……ペペロンチーノが食いたかった」  ラスヴァンは目を瞑っている。罪を後悔しているようだった。ジェイスは口を小さく開けて返した。 「うん、わかるよ、たまにあの味食べたくなるよね……」 ―――  そして今日―――  そんなわけで、ラスヴァン、リト、ザックが禁固刑三日間となった。 「ひゅ〜お嬢ちゃん〜美人だね〜!」 「こら、他の囚人に話しかけるな」  頼りなさそうな牢番が、檻から手を伸ばしているガラの悪い囚人に注意をうながす。 「だってよぉ、こんなピチピチなお客さん久しぶりだもんよぉ。おチビちゃんも可愛いなぁ〜おら、こっち来いよぉ〜!」 「ひ〜怖いっす〜!」  ガタガタ内股になり、怖がるザック。 「…………チッ」  舌打ちをしながらも、ツンとした顔で無視するリト。 「……………」  しばらく大人しくしていたラスヴァンだったが、 「そこのおにいさぁん、いい身体してるじゃな〜い? あたしとチュッチュ、ハグハグしないぃ〜?」  厚化粧して、ボロボロのキャミソールを着たおじさん囚人が話しかけてきた途端――  ガッシャーンッ!! 「きゃあっ!!」  ラスヴァンは横蹴りして檻を蹴っ飛ばす。 「二度と話しかけるんじゃねえ…」  ラスヴァンの目は、今にも人を殺めそうだった。 「な、なによお、いやだわぁ」  おじさん囚人は自分を抱きしめて震えている。  そして――  ラスヴァンの態度を見たリトは、「そういうのありなのか!」と、今まで大人しくしてストレスを溜めていた顔をパアアと明るくして、  ガッシャン! ガッシャン! 「うるせえんだよ、てめえら! 誰がお嬢ちゃんだあ、こらぁ!!」  リトも檻を蹴りまくりだした。 「こら、やめなさい! 今のは悪い見本だぞ、そんなことしちゃダメだ!」  牢番が慌てて止める。 ―――  一番奥から、ラスヴァン、リト、ザックの順に各牢屋に入れられた。 「汚ねえなあ…」  狭い牢屋には、角に黒い埃が積まれ、床はザラザラとジャリだらけ、汚らしいツボ、布団の役割をしていないボロボロのゴザが敷いてあるだけだった。  リトは割と綺麗好きだった。  隣の牢屋にいるザックが、リト側の壁を叩いて尋ねる。 「リト…何してるっすか?」 「掃除…」 「ええ! 牢屋で!?」  リトは敷いてあったゴザをはたいたり、埃を払ったりしていた。 「あ……おい、トイレがねえぞ!?」  リトは牢番に聞こえるように叫んでからキョロキョロと探し、「催したら外に行くのか?」と不思議がるが。 「ツボがあるだろ、そこでしろ! 紙は新聞紙がある」 「ツボ!?」  モンスターが住み着いていそうな汚いツボを見て、リトは顔をゆがめた。また新聞紙も汚らしく固い。彼のお尻はデリケートだったので、こめかみに浮き出た血管が破裂しそうだった。 ―――  ザックはやることがなく、牢の中で膝を抱え、小さくなって寝っ転がっていた。  すると目の前を――  チュ〜  ドブネズミが走っていく。 「あ、ねずみさん! 可愛いっす!」  ザックは動物やモンスターが好きだったので、喜んで起き上がるが、 「バカ! お前触るなよ、バイキン持ってるぞ!」  隣の壁から慌てたリトの声が聞こえてきて、ザックの身体が飛び上がり、 「え!………ちょっと触っちゃったす」  と言った後、震える。 「バ! おい、牢番! そいつの手洗わせろ!」  リトが檻を手で掴み、ガッシャガッシャ鳴らす。 (なんか手のかかるのが入ってきたな〜勘弁してくれよ〜)  牢番は内心困りながらも、慌ててザックを洗面所に連れて行った。 ―――  そんな騒がしい中、ラスヴァンは壁に背中を預けて胡座をかき、静かにジェイスのことを考えていた。  しばらくすると、深くフードを被り、長いコートを着た人物がラスヴァンを訪ねてきた。フードを取ると、慣れ親しんだサラサラの金髪が見えた。 「ラスヴァン! 大丈夫?」 「ジェイス! こんなところに来ちゃダメだ。お前には害しかない」 「でもでも、ラスヴァンに会いたくて…オレ……」  二人は鉄格子を挟んで手を取り合った。  可愛い愛しいジェイスにキスをして抱きしめたがったが、ラスヴァンは――  ドンッ―――  ジェイスの胸元を押して突き放した―――。 「ジェイス、俺のことは忘れて……王都巡りでも楽しんできてくれ」  ラスヴァンは俯いてしまい、顔が見えない。 「ラスヴァン……オレそんな事できない――」 「いいから行け――!」  ラスヴァンは怒鳴った。ジェイスを守るため。  ビクリと体を跳ねさせた後、瞳から雫を散らしながら、ジェイスはラスヴァンの元を走り去った。 「……たった3日だからなぁ」  実はいたミハイルがツッコむ。 ―――  そしてジェイスは傷心のまま、王都でわたあめを食べたり、ケバブを食べたり、どうぶつカステラなどをもりもり食べて、寂しさの傷を埋めた…。 「そうだ、ラスヴァンにたこ焼き買って行ってあげよう……」  ジェイスは青い空を見てラスヴァンを想い、潤んだ瞳で大事にたこ焼きをショルダーバッグに入れる。  そんなジェイスは、口の端にソースと青のりをつけていた。 (ジェイスって、わりと図太いんだよな…)  同じく青のりをつけていたミハイルは思った。

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