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51.焦がし醤油と友情回転

 ラスヴァンとリトとザックは、三日間の刑期を終え、地下牢から出て、長い階段を登り切ると、外からの光が差し、彼らの髪を風が撫でた。  地下牢の入り口は城の隅の外にあったため、三人は思いっきり光を浴びた。  そして―――  醤油を焦がしたような、良い香りがした。 「お疲れ様です」  そこには、イカ焼きを持った神父が立っていた。 「イカ焼きっすーー!!」  臭い飯しか食えなかったザックが、涎を垂らしてイカ焼きに飛びつこうとする。 「皆さんの分もありますよ」  神父が手で横を示すと、イカ焼きを三本持ったミハイルが立っていた。 「みんながんばったな!」  ミハイルは、ハツラツとした笑顔で言った。 「ミハイル!!おれもう牢屋は嫌っす……怖いしバッチイし、自由がなくて辛かったっす!!」  ザックは鼻水と涙をふりまきながら、ミハイルに抱きついた。 「そうか……よしよし」  ミハイルはザックの頭を撫でながら、神父と「うまくいったな」と目配せした。神父とミハイルは、三人に真人間の道へ戻ってほしかった。  また、ミハイルの横にいた銀髪の男が、快活な声を上げた。 「リトさん!牢屋に入ってたのなら、入ってたで教えてくださいよ。差し入れに行ったのに!」 「げぇっ!何であんたここにいんだよっ!?」  リトは神父に、責めるような視線を送った。 「イカ焼きで買収されたんです」  神父はイカ焼きをぱくりと口に入れた。 「それで……ガジガジ……どうでしたか……モグモグ……牢屋は?」  神父はイカ焼きを食べながら、リトに問う。リトは、牢屋が非常に非衛生で、特に汚いトイレの件で、とても機嫌が悪かった。 「チッ………あんなとこ二度とごめんだ」  吐き捨てるようにそう言うと、 「あー!リトさん可哀想に!僕が慰めて差し上げたいです!」  リトより一回り大きな体格をしたダリオが、すごい勢いでリトに向かってきて、ガバァッ!とハグをした。 「なっ!んだ、テメェは!離れろおっ、ぐっ……くそぉ!」  リトは自慢の腕の力でダリオを跳ねのけようとしたが、ダリオの力の方が遥かに上だった。 (なんだ、こいつ……ラスヴァンより力強えんじゃねえか!?)  そんな二人の絡みを見ながら、口の周りに焦がし醤油をつけた神父が叫ぶ。 「リト君は未成年!」  その声に、ダリオのエルフ耳がピクリと反応する。 「わかってます!だから僕も考えてきました。友情のハグ!友情の頬ずり!友情の回転!」  ダリオはリトに健全なハグをして、爽やかに頬ずりをし、正面からリトの脇に腕を入れて、あはは!うふふ!と子供をあやすようにクルンクルンと回転をした。 (ダリオくん……君が騎士であってモテない理由はそういうところですよ……)  神父は冷静に二人を眺めていた。 「え?あれ、リトさんどうしたんですか?」  気づくとリトは、牢屋の疲れとダリオのアクションで目がぐるぐる回り、全身の力が抜けてぐったりしていた。 「た、大変だ!今、休めるところに連れていきますからね!」  リトをお姫様抱っこして、ダリオは長い廊下をヒューン!と走っていった。 「………連れ去られた……」  思わず神父の口からもれた。 ――― 「ジェイスは??」  ラスヴァンがキョロキョロ周りを見ながら探すと、 「あそこにいるぞ」  ミハイルが一本の木を指さす。そこには、チラッチラッとこちらの様子をうかがう影があった。 「……ジェイス?何でそんなところに?」 「久しぶりだから、恥ずかしくなったんだと」  ミハイルが「たった三日なんだけどな」と言う。  ラスヴァンが右手を前に出し、ジェイスを誘導しようとする。 「ジェイスおいで」 「―――!」  ラスヴァンの声に、ジェイスは反応する。 「……おかえり、ラスヴァン!」  ぽよん ぽよん  小走りしてくるジェイスは、前より一回り、ぽっちゃり度が増していた。  そんなジェイスが、ラスヴァンに飛びついてくる。ラスヴァンは体幹を使って、ぽっちゃりジェイスを受け止めた。 「ジェイスは、ラスヴァンに会えなくて、いじけて、食っちゃ寝、食っちゃ寝してたからなぁ〜」  からかうようにミハイルは言った。  思わずラスヴァンは、ジェイスの頬の肉を両掌でもっちりと寄せる。すると、唇がひよこのクチバシのように飛び出た。そんなもっちりフェイスも可愛かった。 「王都巡り、楽しんだんだな」  ラスヴァンがジェイスに微笑みかけながら言う。 「あ、う………ラスヴァンがいなくて寂しくて、たくさん食べちゃったんだぁ……あ!でも、たこ焼き買ってきたの」  ショルダーバッグからたこ焼きを出すが、葉っぱに包まれたたこ焼きは、形を崩していた。 「あ……せっかく持ってきたのにぃ……ごめんねぇ……」  ジェイスの瞳が、うりゅっと涙ぐむ。ラスヴァンはジェイスを優しい眼差しで見つめながら言った。 「ジェイス……俺は、おまえが幸せならいいんだ」 「ラスヴァン……///」  ちゅっ  ラスヴァンは軽く、ジェイスの髪にキスをする。 「あーチュウしてるっす!」  ミハイルが、大声で騒ぐザックの目と口を塞ぐ。 「ラスヴァン……オレは、ラスヴァンがいてくれないと幸せになれないよ」  ジェイスはラスヴァンの背中に手を回し、ぎゅうっと抱きしめた。 「ああ……もう二度と牢屋には入らない。ジェイスから、ずっと離れないからな」 「うん」  ラスヴァンは包み込むようにジェイスを抱きしめ、また人目もはばからずキスをした。  ジェイスの口からは、美味しいイカ焼きの味がした。 ―――  リトは今まで寝たことがないような、ふかふかのベッドに寝ていて、うっすらと目を開いた。  天蓋のあるベッド。  横には、自分をリズミカルに優しくたたき、子守唄を歌う人物がいる。懐かしいような、優しい声。 「母さん……?」  違和感を感じながらも、思わずリトは、心の奥にしまっていた思いを口にしてしまった。  歌がする方向を、ぼんやりした瞳で見てみると、 「起きちゃいましたか?」  一センチの至近距離で、リトに添い寝しているダリオがいた。 「んぎゃあああーーーっ!!」  ダリオの広い家に、リトの叫び声が響いた。  ダリオは、未成年のリトへの接し方を改めて考え、考えすぎておかしくなり、バブちゃんのように接しようと決めていた。 「まだ寝てても大丈夫ですよ。バブちゃんなんだから」  ダリオが笑顔で言う。 「だ、だれがバブちゃんだあっ!!!」  リトは急いで起き上がろうとするが、ダリオの片腕が胸元にあり、押さえつけられ力が入らず起き上がれない。 (―――っこの馬鹿力っ!?) 「ぐっ、このやろ!ち、くしょおっ!!」  必死にダリオの腕から抜けだそうと、身体を左右に揺さぶりだすリト。 (ふふ、可愛いなぁ…暴れん坊の子猫ちゃんみたいだ)  それをいたずらな笑顔で眺める余裕のダリオ。しかし、リトが身体を大きく揺さぶったと同時に―――  ちゅっ  至近距離だった二人の柔らかい唇が触れ合った。 「!?」  少しつり目のリトの目が真ん丸くなって、黒目が点になり、ダリオも流石に驚いて、 「ふふ…ちゅうしちゃいましたね」  頬を染めてとろけそうな笑顔を浮かべた。 「―――っ!!///」  ダリオがそう言った瞬間、リトの下腹のあたりがじんわりと熱くなり、胸のあたりまでどんどん広がっていった。初めての感覚に、頭がついてこない。でも身体は、勝手に反応してた。  普段強がっているリトだが、恋愛経験なしで、もちろんキスもしたことがなかった。ダリオの腕の力が抜けていたのに気づき、 「――くっ!このっ!///」  ベチンッ!!!  リトはダリオの頬を思いっきりひっぱたき、髪とローブを乱しながら、慌てて神父のところにピャーッと走って戻っていった。  置いてかれた銀髪の男の頬には、ひっぱたかれた赤い跡が残っていた。ベッドに横たわり、しばらく余韻にひたるダリオ。 「リトさん、はじめてだったのかな……たまらないなぁ……」  ダリオは、楓のような跡がついた自分の頬を撫でて、うっとりしていた。

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