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第4話

日曜の朝。 目が覚めて、ベッドの上で伸びをしながらあくびをしてたら、カイが(おもむろ)にスウェットの上を脱いでウォークインクローゼットへ入って行った。 今日、出掛けるのかな。 ベッドの上にはカイが脱ぎ捨てていった黒いスウェット。 いつもはランドリーバスケットに入れるのに、と思いながら手に取る。 たぶん俺は、代わりにランドリーバスケットに入れて来ようとしたんだと思う。 だけど、寝起きでぼーっとしてたからか、脱ぎたてのスウェットがあったかかったからか、俺はそのスウェットに顔を埋めてベッドに転がってしまった。 「ネコが飼い主の服の上で寝る理由っていくつかあってね」 「・・・んぇ?」 カイが戻ってきて、なんか言ってる。 ネコ? 飼い主の服? 「素材がネコのお気に入りとか、安心できる存在である飼い主の匂いに包まれたいとか、自分の匂いを付けてこれは俺のものだと主張してるとか」 「・・・んぅ?」 なに、なんの話? お気に入り? 包まれたい? 俺のもの? 「璃都(りと)にゃん、それちょーだい?」 「んぇー・・・俺のぉ・・・」 「ふふっ、3番が正解だったのかな」 なんか笑ってる。 俺、笑われるような事し・・・てる! なにカイの脱ぎたてスウェットに顔埋めてんの? バカなの!? 「ちが、これ、ばすけっと、ちがくて、いれに・・・っ」 「よしよし、好きなだけふみふみしていいよ」 「しないっ!」 ぐおぉ・・・寝ぼけてたとはいえ、なんて恥ずかしい事を・・・。 「俺の奥さんはやっぱりネコ獣人だったのかも」 「人間だってば」 「可愛過ぎる」 くっそ・・・ほんとなにやってんの俺・・・ってスウェットむぎゅむぎゅしてんなよ! ・・・は、まさか、ダメ人間になるとネコ化する? 嘘だろそんな訳ない・・・っ! 「おいでネコちゃん、抱っこしてあげる」 「うん・・・って、上脱いだままじゃん、風邪引くよ」 「獣人は風邪ひかないよ。ネコちゃん抱っこしてればあったかいし」 カイに抱き寄せられ、綺麗な胸筋にすり寄る。 ・・・なぜか、スウェットは手放せないままだ。 「実は再来週、また出張なんだ。1泊の予定なんだけど・・・」 「行く」 「良かった」 再来週か・・・それって平日? 学校休まないとかなー・・・。 ─────── 「そっかぁ、今度はちゃんと付いて行くんだね」 講義前の教室で、ニクスに再来週の出張に付いて行く事にしたと話した。 ニクスは否定せず、さもそれが当たり前だろって言い草だ。 「はい・・・ちょっと精神面に問題が・・・」 「ハイイロオオカミの番だもん、ある種の麻薬的な依存性が発生するって聞いた事あるよ」 「なにそれ恐い」 カイが俺の事を麻薬に例えた事はあったけど、俺にとってカイも麻薬的存在なのかな・・・。 「あれ、禁断症状だったのか・・・?」 「体調不良やイライラ、集中力の低下、不眠、震え、吐き気・・・どれだった?」 「・・・全部かな」 俺の返答に声を上げて笑うニクス。 笑い事じゃないんだけど。 「凄いね、さすがハイイロオオカミの番。それテーマにして論文書いてみたら?」 「創薬科学科の1年でそんな論文書く必要ないだろ・・・」 「確かに」 いずれ書くとしても、そんな内容で書きたくないって。 「ニクスはそーゆうのないの?」 「禁断症状?ないよ。璃都んとこと違って普通の夫婦です」 「うちが普通じゃないみたいな言い方・・・」 「え、待って、まさか普通だと思ってる?」 2人でけらけら笑い合っていたら、先生が入って来て講義が始まった。 薬学概論だ。 ・・・よし、今日はちゃんと講義に集中出来てる。 先週の講義は殆ど聞いてなくて、カイに邪魔されながら必死で復習するハメになったんだよな・・・。 講義が終わり、イオに促され教室移動。 次は英語か・・・あ。 「あっ!たち・・・ルプスくん」 久しぶりだね、佐野(さの)くん・・・。 君に会うと俺、碌でもない事になりかねないんだけど。 「偶然だね、佐野くん」 「うん・・・あ、あの、大丈夫です、これ以上近付きませんから!」 イオを恐がってるけど、威嚇されてないから大丈夫じゃないかな。 「その後どう?キツネ獣人の先輩とは」 「あ・・・えっと、その・・・」 「お友達から進展したんだね」 「なんでわかるの!?」 わかるよ。 獣人相手に逃げられる訳ないって事くらい。 「つ、付き合う事になって・・・卒業したら、け、結婚する、かも・・・」 「え!?卒業するまで結婚しないの?」 キツネは待てが出来るんだな。 うちのオオカミにも見習って欲しい。 「あ、うん、一応。ちゃんと卒業して、レイン先輩の会社に就職したら・・・って」 「そうなんだ。頑張ってね、色々」 「うん、ありがとう。・・・いろいろ?」 色々は色々だよ。 卒業も就職も、獣人とのお付き合いも。 佐野くんとはそれで別れ、ニクスとイオと次の教室へ向かった。 ─────── 「ぐ、偶然!移動中に会ってちょっと話しただけ!誰も悪くない!」 「非を認めないなんて悪い子だね、璃都」 いつもの駐車場へ行くと、用事があるからってネージュさんが迎えに来てて、ニクスは先に帰った。 俺はイオにお疲れさまって言って、流れるように車へ乗り込もうとしたんだけど、まさかの裏切りにあう。 イオが俺と佐野くんのエンカウントをカイに報告したんだ。 あれくらい、黙っててくれてもいいじゃんか・・・。 「イオ、報告ありがとう。璃都、帰ったらお仕置きだよ」 「なんでっ!?」 前回はイオを庇おうと、自分が悪いなんて言ってしまったのが悪い結果に繋がった。 だから今回は誰も悪くないと断言したのに。 「同級生とばったり会ってちょっと話しただけなのに・・・悪い事してないっ!」 「ごめんなさいって言えない子にはお仕置きしなきゃ」 「謝ったら俺が悪いって事になるじゃん。そしたらどうなる?」 「お仕置きだね」 「ほらあっ!」 車中で言い争うも、俺に下された判決はお仕置き一択。 納得いかない。 「佐野くんはウルペス先輩と付き合う事にしたんだって。んで、卒業したら結婚するんだってさ」 「そう。わざわざ佐野くんが報告しに来たの?」 「え?いや・・・俺が、その後どうって聞いて・・・」 「璃都から話しかけたの?はぁ、ちょっとキツめのお仕置きしないとな」 「なんでだよ!?先に声かけて来たのは佐野くんですぅ!」 だめだ、これ以上余計な事言わない方がいい。 刑罰が重くなる一方だ。 「そんな可愛い顔してもだめだよ」 「・・・・・・・・・」 可愛い顔なんかしてないだろ。 むすっとしてんの。 「今さら黙秘?」 「・・・・・・・・・」 「ごめんなさいは?」 「・・・・・・・・・」 謝ったら罪を認めるみたいになるからだめだ。 ここは黙秘で無罪を主張しよう。 「・・・仕方ない、痛くて泣いちゃうお仕置きにするね。明日は学校休ませるから」 「ごめんなさい!赦してください!声かけられてつい他所(よそ)の恋路が気になって聞いてしまいました!他意はありません!接触も連絡先の交換もしておりません!」 「そう、赦して欲しいの?じゃあ、痛いの頑張れるよね?」 終わった。 帰りたくない。 渋滞しないかな、パンクとかしないかな、UFOとか飛んできてアブダクションされないかな・・・。 「着いた。降りるよ」 「待って、裁判員裁判にしよう。シグマ、俺は無罪だと思うよね?」 車から降りながら、ドアを開けてくれたシグマに助けを求める。 同級生とばったり会ってちょっと話しただけの俺が有罪な訳ないよね? 「偶然お会いになって、挨拶を交わされただけでしたら無罪でしたが、璃都様から話題を振られたのはよろしくなかったかと」 「残念、ネコちゃん有罪」 「じょっ、情状酌量を求め・・・わ、待って下ろして・・・っ!」 俺はカイに問答無用で抱き上げられ、寝室へ直行する事になったのだった。

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