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第6話

今日はカイの出張に付いて行く日。 午後から会議と、その後に食事会、明日の朝から昼まで現場視察、だって。 「璃都(りと)、大人しくして?」 「いやだから、首輪はいらないって!」 「お仕置き用のじゃないから苦しくないよ。ほら、いい子だからじっとして」 結局、俺の首には細身でピンク色の首輪が嵌められた。 ・・・ほんとだ、軽いし苦しくない。 だからって着けていい訳じゃないからな? 「そもそも、なんで首輪なんて・・・」 「万が一、俺の可愛いネコちゃんがホテルの部屋から脱走した時のために、GPS付きの首輪だよ。指定した範囲から出たら俺のスマホに知らせが入る様になってる」 「こわ・・・」 こっそり出て、カイが帰って来るまでにホテルに戻れば大丈夫・・・とはならないって事か。 「指定範囲って?」 「ホテルの部屋の中。気圧センサーも搭載してるから、別の階に行ってもわかるよ」 まじで部屋から出らんないじゃん。 とりあえず、いつものリュックにタブレットと参考書、一応ゲーム機も入れる。 これで1日くらい監禁されてもなんとかなるだろ。 そんな俺の首輪に、カイが小さな南京錠を付けた。 「これで良し」 「首輪に鍵まで付ける必要あります?」 「俺の賢いネコちゃんは、外した首輪を部屋に置いてお散歩に行こうとするかもしれないでしょ?」 なぜわかった。 なんだよ、ちょっとくらい独りで出歩いたっていいだろ・・・。 「今夜の食事会、璃都も一緒に行こうね」 「え?俺も行っていいの?」 「先方の奥さんも来て、4人で食事しようって」 「ふぅん」 俺が他人と接触するのを嫌がるカイが、それを許すなんて珍しいな。 相手はどんなヒトなんだろ。 「先方って、獣人?」 「いや、彼は人間だよ。奥さんがウサギの獣人」 ウサギの獣人・・・やっぱ可愛いのかな。 会うのちょっと楽しみ・・・。 「璃都・・・俺以外の獣人に興味を持たないで」 出た、眼が笑ってないやつ。 そもそも、なんで俺がウサギ獣人に興味持ったってわかるんだよ。 「いえ、興味なんて持ってないです。俺は俺のハイイロオオカミさんだけで充分です」 「そう?しっかりわからせてあげたい所だけど、もう出なくちゃ・・・続きは今夜、ホテルでね」 「お気遣いなく」 出張先のホテルで・・・とか、やめて。 仕事で疲れてるだろうから、大人しく寝ようよオオカミさん。 ─────── 車で移動する事3時間半、宿泊するホテルに到着した。 うわ・・・予想はしてたけど、超高級ホテルだ・・・。 「ルプス様、ようこそお越しくださいました」 支配人と名乗る人に出迎えられ、案内されたのはスイートルーム。 入って左はウォークインクローゼット、正面には大きなソファーとローテーブルのあるリビング、その先はバルコニーに出られるようになってる。 リビングに入って右手前にはバーカウンター、左奥の扉を開けるとキングサイズのベッドがある寝室だ。 ・・・無駄に広い、全体的に。 泊まるの、俺たち2人だよね? 「バスルームは寝室の奥だよ。入って右に洗面所とお風呂、左にトイレだからね」 「ん」 来る途中、高速のサービスエリアに寄ったんだけど、俺はトイレに行かずご当地シェイクを買ってもらって飲んでた。 そう、そろそろトイレ行きたい。 ・・・それに気付く変態オオカミ恐い。 「付いてくんなって」 「手伝おうかと」 「いらんわっ!カイは支度してろ。着替えなさい」 なんとかカイを(かわ)してトイレへ行き、手を洗って寝室に戻る。 「璃都、ネクタイして?」 「はいはい」 ベッドに腰掛け、俺を待っていたカイ。 俺はいつも通り、カイの膝を跨いで乗っかり、ネクタイを締めようと・・・。 「あー・・・急に行きたくなくなっちゃった・・・」 「こらこら、くっ付かれたらネクタイ締めらんないだろ」 カイが唐突に俺吸いを始めた。 これ、始まると長くなるんだよな・・・。 「ねぇ、カイぃ、早く支度しないとぉ」 「・・・んー・・・」 「カイザルさーん、お仕事ですよー」 「・・・んんー・・・」 「俺お腹すいちゃったなー。仕事行く前にホテルのレストランで昼ご飯食べるって言ってたじゃーん」 「・・・すぅー・・・はぁー・・・すぅー・・・・・・」 「ちょ、吸いっぱなしやめろ」 そう言いながら、俺もカイのオオカ耳をもふるのがやめられない。 どうしたもんかと思っていると、ベッドの上に置いてあったカイのスマホが鳴った。 あ、シグマからの着信だ。 いつも待つスタンスのシグマが電話してくるのは、つまり約束の時間を過ぎているという事。 まずい・・・。 「カイ、シグマから電話!はい俺吸いおしまい!ネクタイするから・・・」 カイも観念したのか、俺にネクタイしてもらいながら電話に出る。 ああ、うん、わかってる、とか応えてるけど、たぶん怒られてる。 「出来た。はいベスト着て。ジャケット俺持ってくから。行くよ」 なんか、大きな子どもを学校へ送り出す母親の気分。 カイの手を引きリビングを通って部屋を出ると、ホテルの廊下にシグマが待ってた。 笑顔だけど、絶対怒ってるやつ。 「ごめんシグマ、時間だいじょぶそ?」 「問題ありません。ありがとうございます、璃都様」 エレベーターで下に降り、レストランへ。 カイと食事をして、部屋まで連れて行かれ、また俺吸いを始めようとする旦那を執事に頼み、俺は広いスイートルームに独りになった。 タブレットと参考書を出して勉強しながら、いつもと違う環境下での無音に耐えかね、玲央(れお)に電話をしてみる。 『どしたー?』 「玲央お義兄(にい)さま、今お電話よろしいでしょうか」 『よろしくてよ』 「あはっ、なんでお嬢様言葉?」 『なんとなく。あ、そっちはカイザルさんの出張先か。ホテル?』 「そー、監禁中。GPSと気圧センサーと鍵付きの首輪着けられてる」 『ぶはっ』 笑い事じゃないって。 『カイザルさん徹底してんなー。あ、首輪(それ)の事はシドには言うなよ?俺までやられかねない』 「俺ちょっとリシドお義兄さまとお話ししたい気分」 『やめろっつってんだろ。切るぞ』 「やだやだ、もお少し話そうよ」 俺たちはそのままヘッドセット着けてハンズフリーで話しながら、各々勉強と仕事をした。 2時間くらいして、玲央はオンライン会議があるからって、通話終了。 俺も休憩しようかな。 バーカウンターへ行き、冷蔵庫を開ける。 ・・・あ、ホテルオリジナルジュースだ。 ラフランスのにしよ。 瓶を開け、グラスに注ぐ。 いい匂い・・・あ、うまっ! 「・・・ん?」 スマホに着信があり、画面を確認するとダーリンの表示。 ・・・いい加減、カイの登録名変更しないとな。 「なあに?」 『そろそろ勉強やめて休憩してるかなと思って』 何故わかった・・・。 この首輪、カメラとか付いてないよな? 『首輪にカメラは付いてないよ。次は付けておこうかな』 「やめて」 カメラ付けるのも、考えを読むのも。 会議の合間に連絡してきた旦那と少し話してから、今度はゲームを始めた。 カイは19時前には帰って来るって言ってたけど、あと3時間半くらい・・・独りだと暇だな・・・。 「んー・・・ゲームもすぐ飽きる・・・」 やばい、思ってたより監禁生活は退屈だ。 ソファでぐーっと伸びをして、ちらっとバルコニーが視界に入る。 ちょっと行ってみるか。 ウォークインクローゼットに寄って、敢えて自分のではなくカイが着てきたコートを羽織った。 ・・・デカい・・・けど、安心する。 「う・・・っ・・・寒ぅ・・・っ」 バルコニーに出ると、都内より低い気温に身体がぎゅっと縮こまる。 もう12月になるもんな。 ・・・今年のクリスマスプレゼント、またリボン買うべきなのかな。 気は進まないけど・・・カイが望むなら仕方ない。 でも、今年は1mにしとこ。

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