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第10話
「やだっ!」
「どうして?絶対似合うのに・・・」
「似合ってたまるかっ!」
俺もカイも冬休みに入り、りっくんと玲央 で年越し旅行に行こうって事になってたんだけど、カイが今俺に着せようとしてる服がどうしても受け入れられない。
「玲央 くんとお揃いだよ?」
「なんでわざわざ玲央とお揃いなんだよ!?お義 兄 ちゃんとおそろなら着るぅとか言わないからっ!」
そもそも、こんなの玲央だって着ないだろ。
だって・・・カットオフショルダーのニットワンピースだぞ?
お義姉 さん、俺たちの性別ちゃんとわかってるはずだよね!?
「でも・・・璃都 が着てくれないと、玲央くんがっかりするんじゃないかな・・・」
「しねえよっ!てか玲央も着ないって!」
「電話してみようか」
カイがスマホを取り出し、スピーカーにしてりっくんと通話を始めた。
「リシド、玲央くんはワンピース着てくれたか?」
『おー、着てるよ。なんで?』
「璃都が嫌がって・・・」
『えー・・・玲央ぉ、ちょりとがおそろ嫌だってー』
『はあ!?ちょりとも着ろよ!お義兄様を裏切る気か!?もうすぐそっち着くから、着てなかったら無理やり着替えさせるからなっ!』
ぶちっと通話が切れた。
ええ・・・玲央、着たんだ・・・。
「璃都、いい子だから着替えようね。はい、ばんざーい」
「ぐうぅ・・・」
度々お世話になっているお義兄様を裏切る訳にはいかないか・・・。
俺は観念して両腕を上げた。
部屋着を脱がされ、カットオフショルダーのニットワンピースを着せられる。
・・・肌触り良いな。
「高級そー・・・」
「ベビーカシミヤだって」
「べびー・・・」
色もベビーピンクだしな。
「玲央のもピンク?」
「玲央くんのはミントグリーンらしいよ」
お義姉さん、玲央のもピンクにしといてよ・・・。
「あんよが寒いと可哀想だから、タイツ穿こうね」
「ん」
タイツはチャコールグレーで110デニール。
ワンピースの裾が膝上丈だったから、これでちょっと安心・・・しないからなっ!
そもそも俺は男なのになんでワンピースなんて・・・。
「うん、可愛いね。璃都は何着せても可愛い」
「女装なんて2度としないからな!お義姉さんにもちゃんと言っといて!」
「はいはい」
満足そうなカイに抱き上げられ、1階に下りる。
旅行鞄は既に玄関ホールに置いてあり、あとはコート着て靴履くだけなんだけど・・・。
「え"!?」
「ブーツもヘラルダ姉さんから送られてきたんだ。玲央くんとお揃いだって」
「これ絶対レディースじゃん!」
「ブーツだけメンズじゃ合わないでしょ」
用意されてたのはミドル丈のムートンブーツ。
わぁ、ふわもこであったかぁい・・・とはならないからなっ!
恥ずい!
屈辱だ!
くそ・・・ちょっと可愛いのがまたムカつく・・・!
玄関を出ると、丁度家の敷地内にデカいSUVが入ってきた。
あ、車買い替えたんだな。
「お、ちゃんと着てるな」
「ちょりとも似合うじゃーん」
「俺の璃都は何を着せても似合うんだ」
「黙って」
運転席から降りてきた玲央は、俺と同じカットオフショルダーのニットワンピースを着てた。
色はカイが言ってた通り淡いミントグリーン。
タイツとブーツもお揃い・・・なぜ義兄とお揃いで女装なんてするはめになったんだ・・・。
「玲央・・・思ったより似合ってるね。コート着てなくて寒くない?」
「車は暖房効いてるから寒くない。ちょりとも案の定似合ってんな」
「嬉しくない・・・」
「2人とも美人だし、着せたはいいけど心配になってきたなー。でも見せびらかしたい気持ちもある」
「同感だ。璃都、絶っ対に俺の手を放さないでね?いい?」
「はいはい・・・」
カーゴルームに荷物を載せ、カイと一緒に後部座席へ。
りっくんは助手席、玲央は運転席に座った。
・・・スカートで運転って、どんな気分なんだろ。
「そう言えば、ちょりとも免許取りたいとか言ってなかったっけ?」
りっくんが思い出したように言う。
あー・・・それ、聞いちゃう?
「ぅーん・・・俺、やっぱ助手席がいいかなーって・・・」
「璃都は運転、向いてなかったんだよね」
「黙って」
そう、俺は運転、向いてなかった。
カイに教わりながら、試しに敷地内で車を動かしてみたんだけど、俺はプチパニックになり断念。
危うく高級車を傷物にするとこだった。
やると決めた事を途中で諦めたの、運転が初めてだったな・・・。
「ぶはっ!運転って向き不向きあったんだ?」
「笑うなっ!」
「カイザルにとっては良かったな。脱走癖のあるネコちゃんが逃走手段を増やさずに済んで」
「まあな」
「玲央と違って俺に脱走癖はないってば」
「俺だって・・・」
「玲ぇ央ぉ?」
「はいはい、これ以上ピアス増やす気ねぇよ」
玲央の運転で高速に乗り、1時間半程してサービスエリアに到着。
車から降りてカイと手を繋ぐ俺の目の前で、玲央がりっくんの腕にぎゅっと抱き付くように腕を絡ませた。
「ちょりともやれよ。せっかく女装してんだから、それっぽくしとけ」
「え・・・」
「璃都は抱っこの方が好・・・」
「腕をお借りしますわ旦那様!」
人がそこそこ居るのに、こんな所で抱っこは嫌だ。
俺もカイの腕に自分の腕を絡めた。
「すご・・・美人・・・」
「姉妹で獣人の番なのかな・・・」
すれ違う人たちが俺と玲央を見て言う。
聞こえてます、俺たちを女性認定した上での批評はご遠慮ください。
「俺たち似てないのにな」
「いや、それ以前に姉妹じゃなくて義兄弟なんですけど?」
「いいじゃん、義姉妹って事で」
「よくないって・・・」
玲央は女装を受け入れて、楽しんでさえいるように見える。
さすがお義兄様・・・俺はまだ、そこまでの境地には辿り着けない・・・。
「かわい子ちゃんたち、なに食べたい?」
サービスエ リアで昼食を摂るらしく、フードコートに入ってりっくんが偽義姉妹に希望を聞いてきた。
うーん・・・寝坊して朝食べてないから、がっつり食べたいな・・・。
「俺の璃都ちゃんはカツ丼が食べたそう」
「何故わかる」
「俺の玲央ちゃんはうどん・・・で、俺にラーメン食わせてメンマとチャーシュー取る気かな」
「良くわかったな」
え、いーなー。
俺もカイの食べてるやつからなんか取ろ・・・と思ってたんだけど・・・。
「ねぇ、カイ・・・」
「ん?お腹いっぱいになっちゃった?」
カイの分を取るどころか、自分の分も食べきれなかった・・・。
だって、思ったより量、多かったし。
「ちょりと、相変わらず少食だなー。ま、玲央みたいな偏食じゃないから良いけど」
「別に偏食じゃない。好き嫌いがはっきりしてるだけ」
なんか言いながら、りっくんのラーメンからメンマを摘む玲央。
りっくんは玲央が残したうどんを食べてる。
カイは俺の残したカツ丼を・・・あ、そうか、こうなる事わかってて普通にラーメンにしてたのか。
「ねぇ、カイ・・・」
「たまご、残してあるよ」
「あー」
「はい、あーん。ふふ、可愛い」
箸を置いてしまっていたので、口を開けてカイに食べさせてもらった。
ここは家じゃなくて、知らない人たちも周りにいるのに。
「素直に甘えられるようになったじゃーん」
「まあねっ」
りっくんの言葉に開き直る俺。
順調にダメ人間になってますよ。
カイが居ないと、そのうちほんとに息出来なくなるんじゃないかって戦慄しながらな。
「俺、ソフトクリーム食べたぁい」
「もー、俺の玲央ちゃんは本当にアイスが好きだねー」
「俺もぉ」
「璃都はカップのにしようね」
玲央と一緒にソフトクリームを買ってもらい、ふた口食べてカイにバトンタッチ。
満足。
玲央はやっぱり、上の部分だけ食べて、コーン部分をりっくんに渡してた。
玲央もカップのにすればいいのに。
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