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第12話

「着いたー!」 サービスエリアから更に1時間、目的地に到着。 ここもルプス家所有の別荘だ。 途中からだんだんと雪景色に変わってきたなと思ってたけど、別荘(ここ)はすっかり雪に覆われている。 敷地内のガレージに入った車から降りると、冷たい空気に息が白く煙った。 「雪ぃ・・・寒ぅ・・・」 「璃都(りと)、おいで」 カーゴルームから鞄を出したカイが、あいている方の手で俺の肩を抱いた。 りっくんも鞄を出して・・・って、3泊4日にしては多くない? 何をそんなに持ってきたんだよ・・・。 玲央(れお)は我先にと別荘の玄関へ。 玲央が鍵持ってたのか。 「ひっろ・・・てか、あったかい?」 玄関に入ると、既に暖房が入っていたようで暖かかった。 誰かいるの? 「俺たちが来る前に、管理人が温めておいてくれたんだよ。玄関前とかも除雪してあったでしょ?」 「あ、そうなんだ」 管理人さんは既に帰ったみたいで、暖かいのに誰もいないリビングに足を踏み入れる。 あっ、暖炉だ! 「玲央、ちょりと、ちょっとそこに並んで?写真撮るから」 「おー」 「え?なんで?」 コートを脱ぎ、暖炉の前に立って少し首を傾げ、胸の前に両手でハートをつくってポーズして見せる玲央。 なんでそんなノリノリなの・・・。 「ほら、ちょりと、真似しろよ。お義兄様(にいさま)にだけ恥かかせんな」 「なんで俺まで・・・」 玲央に言われ仕方なく、同じポーズをとった。 りっくんがスマホで撮影し、その写真をお義姉(ねえ)さんに送るんだそうな。 女装はもう2度としないって、りっくんからも言っといてよね。 「写真撮ったし、着替えてもいい?」 「いいけど、もうベッドに行きたいの?」 カイがよくわからん事言ってる。 いや、女装解除したいだけなんだけど? 「こんなに可愛い格好してるんだから、脱がせて抱くまでがセットでしょ」 「どうして俺の旦那は変態オオカミなの?」 「俺の奥さんが魅力的過ぎるからです」 仕方なく、そのままソファに座ろうと思ったら、俺の目にロッキングチェアが映った。 暖炉の前のロッキングチェア・・・! 「あ、カイザルのネコちゃんが自分の居場所見つけたな」 りっくんが暖炉に火を灯しながら言う。 うん、ロッキングチ(これ)ェア俺の。 「暖炉でしっぽ焦がすなよ?」 玲央は俺を揶揄いながら、奥のキッチンへ向かった。 お茶淹れてくれるらしい。 「璃都にゃん、俺の膝の上の方がいいんじゃない?」 ゆらゆらを楽しむ俺の前に立ち、椅子と俺の間を譲れと眼で訴えてくるカイ。 譲らんぞ。 無言でロッキングチェアを揺らしながら、カイと睨み合う・・・だんだんと暗く、ハイライトを失っていく金の眼・・・あ、これ以上はだめっぽい。 「ん、カイ、座って」 「おいで、璃都」 イスから立ち上がりカイを座らせようとしたら、カイは先に俺を抱き上げて向かい合わせにし、膝を跨がせて座った。 俺の背中にカイの腕がまわり、密着させられる。 「あーあ、捕まっちゃった。カイザルー、それじゃちょりとがココア飲めないじゃん」 「口移しすればいい」 「やだあっ!」 熱いの口移しだと火傷するじゃん! ・・・って、そーゆー問題じゃないよな・・・口移し自体を問題視するべきだった・・・。 「大丈夫、ちゃんと冷ましてから口移しするから」 「だから、そーゆー問題じゃないって」 カイに密着させられた状態でゆらゆら・・・なんだこれ・・・めっちゃいい・・・! カイの胸板を枕に、ココアの到着を待ってたんだけど、自分でも無意識に、ほんとどうしてそんな事しようと思ったのかわからないけど、カイが着てるゆるっとしたニットの裾をめくって・・・。 「璃都?」 「んー?」 カイのシャツとニットの間に潜り込んだ。 この包まれてる感じ・・・いいな・・・カイの鼓動も聴こえて・・・落ち着く・・・。 「気に入った?」 「ん、気に入った」 こんな事しといて今更だけど、ニット伸びちゃうな・・・たぶんこれもブランド物で高いのに・・・。 「ちょりと、どんどんネコ化してんじゃん」 りっくんの、面白がってる声。 俺、ダメ人間になるつもりがネコ化してんのかな。 いや、そんな訳ない、俺はちゃんとダメ人間・・・。 「ココア淹れたぞ・・・って、なにやってんだ?」 あ、玲央がココア淹れてきてくれた。 受け取りたいけど・・・もうちょっと・・・このまま・・・。 「あそこが気に入ったんだってさ。僕たちは先に飲んでよう」 りっくんがそう言って、俺を除く3人は何か飲みながら雑談を始めた。 今回の年越し旅行は基本、別荘(ここ)に篭ってのんびり過ごす予定だ。 庭が広いって聞いたから、明日は雪だるまとか作ろうかな。 「・・・暑い」 「ネコちゃんなのに、暑がりだね」 カイのニットから出て、俺もココア飲もうかなと思ったら、どうやらカイたちはコーヒーを飲んでるらしい。 俺だけココアって・・・子ども扱いされてない? 「なんで俺だけココア?」 「俺たちのはカフェロワイヤルだから。ネコちゃんにブランデーは良くないかなって」 「ふーん」 カフェロワイヤルって、なんだっけ? ブランデー入ってんの? 別に酒が飲みたいとか思わないけど・・・なんか自分だけココアなの悔しい。 カイが持ってるカップに顔を寄せ、ふんふんと匂いを嗅ぐ。 ・・・なんか、いい匂いする。 「こらこら、ネコちゃんはこっち」 ココアが入ったマグカップを渡され、こっちもなんとなくふんふんと匂いを嗅いだ。 ・・・甘い匂い。 「うま」 「やっぱちょりとはお子ちゃまだねー」 「来年20歳(はたち)か・・・酒飲んだら人格変わったりして」 りっくんと玲央が、ココアを飲んで満足する俺を揶揄う。 俺だって、飲もうと思えば酒くらい、飲める。 ・・・たぶん。 「酔った璃都がどうなるか・・・楽しみだな」 「俺は酔っ払いオオカミみたいにはならない」 「それはどうだろうね」 ブランデーの香りがするコーヒーを飲みながら、目を細めて笑うイケメンオオカミ。 変な期待をするなよ。 俺は酔わないからな。 ・・・たぶん。 「夕飯はチーズフォンデュだけど、キルシュ入れんのやめとく?」 「キルシュ?」 「さくらんぼのお酒だよ」 「入れないとお子様向けチーズフォンデュになるな」 「入れて!」 玲央の「お子様向け」という言葉に、黙ってはいられなかった。 りっくんも玲央も、俺の反応に笑ってる。 子ども扱いしやがって・・・。 「そう言えば、璃都にはウィスキーボンボンも食べさせた事なかったな」 俺の口元に付いたココアを親指で拭いながら、カイが言った。 ウィスキーボンボンって、酒入りのチョコ? 食べた事ない。 「カイザルが食べさせてなくても、自分で買って食べた事くらいあるんじゃないの?」 「ない。自分でお菓子とか、あんま買わなかった」 りっくんの言う通り、カイに逢う前の俺が普通の高校生だったら、買って食べてたかもしれない。 でも俺は孤児だった。 施設のおやつにはそんなの出なかったし、独り暮らししてる時も勉強とバイトと貯金で、お菓子なんて殆ど買わなかったし。 「でも、ちょりと甘い物好きだよな?」 「うん。カイと一緒になってから、だけど」 去年りっくんからクリプレに貰ったチョコレートファウンテン、週イチで稼働してます。 贅沢を覚えさせられてしまったな・・・。 「そっか、苦学生だったんだよな、ちょりと」 「お嬢様みたいな顔してるけど、苦労人だったんだもんな」 お嬢様みたいな顔なんてしてないから。 そもそも、お嬢様みたいな顔ってどんな? 「お嬢様はこんな事しない」 カイに空になったマグカップを押し付け、再びカイのニットに潜る。 「あ、また潜った」 「玲央も潜る?」 「いや・・・ぅん、ちょっと試す」 あ、玲央も潜った? 「・・・・・・苦しくね?」 「えー、もう出ちゃうのー?襟から顔出せば?」 「伸びるだろ・・・ま、いっか。シドのだし」 いいのかよ。 りっくんの服だって絶対高いやつなのに。 「璃都にゃんも顔出す?」 「顔出したら聴こえないから、いい」 「そう?」 カイの鼓動、落ち着くんだよな。 落ち着く・・・と同時に・・・眠く・・・なるんだけど・・・。

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