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第2話
震える手でスマートフォンを操作して、同級生に病院へ連れて行って貰うから車を置かせて欲しい。と上司に許可を得てから崎田の車へと乗り込む。
車内の香りのせいか、萩山の頭がぼうっとして呼吸が荒くなる。
首あたりに何かがさわさわと触れた感覚に驚いた萩山が、触られたらしい箇所を押さえると丈夫そうなレザーのつるりとした感触がした。
「崎田、これ」
「先にしておかないと、後々困るかなって」
彼のそういう先回りする優しさは変わらないんだなあと萩山が感慨にふけっていると、車は静かに動き出した。
十分ほど車を走らせた後、崎田の引っ越し先らしいアパートの駐車場に車が停まった。
実家も近いはずなのに、そこには住まないのかな……と萩山がぼんやり考えていると、それを察したらしい崎田がバツの悪そうな顔でぽつりと呟いた。
「今、実家には兄夫婦がいるから」
「そうなんだ……」
「そんなことより、大丈夫か?初めてヒートが来た奴みたいになってるけど」
「俺、今までこんな、なったことなくて……これじゃあ仕事も、クビになるかも……」
大きな目にたっぷりと涙を溜めた萩山を、崎田は神妙な面持ちで見つめている。
表立って何かをされる訳ではないが、Ωだとこの町では就ける職業がかなり限られている。役場なんてもってのほかだ。
この小さな田舎町で、Ωがどのような扱いを受けているか二人ともよくわかっているからこそ、互いにそれ以上言葉を交わせなかった。
「とにかく、今は俺がどうにかするから。萩山は何も気にしなくていい」
「ほんと……?」
「ああ。多分色々……その、大変かもしれないけど……萩山が嫌なことは絶対にしないから、それだけは約束する」
この熱が引くなら何をされたって構わない、と思うほどに混乱していた萩山は、ぽろりと涙をこぼしながら小さく頷く。
それを見た崎田は萩山を安心させるように頭に手を置くと、先に運転席を降りて助手席の方まで移動した。
崎田はドアを開けて、導くように手を差し出す。萩山は一瞬躊躇したあとにゆっくりと手を伸ばすと、優しく手を握られた。
「散らかってるけど、ベッドはもうちゃんとしてるから」
崎田の言葉に、萩山はこれからされることを具体的に想像してしまい、耳まで一気に赤くなった。
今まで彼女にしてきたことを、される側になる実感が湧かない萩山がフリーズしていると、崎田は手を離さぬままゆっくりとそれを引いた。
「優しくするから、萩山は俺に身を委ねて?」
まだ彼の家にも入っていないのに、うるさすぎるほどの心臓を押さえながら萩山は色素の薄い崎田の瞳を見つめた。
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