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第3話

 崎田は身体に力が入らなくなってきた萩山を抱えるように移動し、少し古い鉄製のドアの鍵を開ける。  このアパートは見た目こそ古いがリノベーション物件らしく、比較的新しそうな匂いと薄暗い中でも光っているような白い壁紙が萩山を迎えた。 「ぅう……」 「萩山、大丈夫か?」  顔を赤くしてくったりとうなだれる萩山を見て、崎田は眉間にしわを寄せる。 「歩けそうか?」  ふるふると小さく首を横に振った萩山は、潤む瞳で崎田を見上げた。 「なあ、これ……本当に治るのか……?」 「大丈夫、すぐに治してやるから。ただ……」 「なに?」 「初めてが俺で、ごめんな」  別に初めてじゃないのに、と萩山が言おうと口を開きかけたが崎田の言わんとすることを察して口をつぐむ。  ――そうか、俺は今から……崎田に抱かれるのか。  萩山が自覚した途端に心臓がばくばくと大きく脈打ち、それが崎田に伝わってしまわないか不安になったが、身体を持ち上げられた驚きで全てが飛んでいってしまった。 「えっ……」 「悪い。嫌かもしれないけど、ベッドまで我慢して」  いわゆるお姫様抱っこの格好で抱きかかえられた萩山は、崎田の首の後ろに手を回す。  廊下を歩き、リビングらしい部屋の手前にあるドアを開けるとそこにはまだ荷解きしていない段ボールと、綺麗に整えられたベッドが置かれていた。 「ゴムはちゃんと出してあるから」  コンドームって真っ先に出すものだろうか、と萩山が不思議に思っていると、ベッドに寝かされてネクタイを解かれる。 「スーツ、自分で脱げるか?」 「うん……」  もぞもぞと身体を動かして先にジャケットを脱ぐと、すぐに崎田がそれを回収してハンガーにかけてくれていた。 「その……下も、脱げるか……?」 「……大丈夫、脱げるよ」  おぼつかない手でベルトを外し、スラックスをずらすと既に持ち上がっている布地と、先走りか何かで軽くシミになっている下着が目に入り、情けない気持ちになる。  今まで大丈夫だったのに、一体どうしてこんなことになってしまったのだろう……と萩山は答えのない問いを繰り返しながらスラックスを足から抜き取ると、崎田に手渡した。 「萩山、シャツは俺が脱がしてもいいか?下着は脱がせても大丈夫になったら言って。替えはあるから」 「うん、いいよ。脱がせて」  この状況でも自分を気遣ってくれる優しさに鼻の奥がつんとした萩山は、ベッドに横たわり崎田の方に腕を伸ばした。

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