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第14話
「そういえば、崎田はなんでこの街に帰ってきたんだ?」
小学校三年生の頃に引っ越した彼の実家は、当然ここにはない。こんな田舎にわざわざ戻ってくる理由がわからなかった萩山が聞くと、崎田はもっともらしい顔をしながら答えた。
「ん?内緒」
「はぁ?……ま、いいけど……」
「ありがとう、萩山のそういう所が……」
「なんだよ」
「いーや、なんでもないよ」
ふと崎田の瞳の奥が暗くなった気がしたが、次の瞬間には今までのような優しい顔に戻っていた。
その後コーヒーを飲みながら昔話をしていたら、いつの間にか外が暗くなっていた。
「そうだ萩山、今日泊まっていくか?」
「え、いいよ別に……引っ越してきたばかりで忙しいだろ」
「俺なら大丈夫。萩山のヒートが不安定そうだから様子見たくて」
真剣な顔に圧された萩山は小さく頷いたが、あることを思い出して口を開いた。
「泊まるのはいいけど、着替えと今日の薬だけ取りに行っていいか?」
「いいよ。俺が送っていくよ」
「近いから大丈夫だって」
「俺がしたいんだよ」
「……わかった」
もともと着ていたスーツに着替え、アパートの鉄扉を開き崎田の車の助手席に座る。
入った時には気づかなかったが、あたりを見回すと確かに自分の家から近い場所にある建物で驚いた。
崎田には近くの道路で待ってもらい、家に帰った萩山が玄関を開けると、母親が出迎えたと思ったら怪訝な顔をする。
「由樹あんた、首のそれ何?」
「あ……これは……」
「あなたがΩってことは言っていないのに、そんなもの着けていたらご近所の噂になるわよ。ただでさえこの地区にはほとんどαさんがいないっていうのに…」
「はいはい」
「ちょっと、話聞いてるの!?」
母親の怒声を背に、情けない気持ちで萩山は階段を上がる。明日着る服と、今夜の部屋着。そしていつも飲んでいる薬のPTPシートを折って適当なチャック袋に押し込む。
――Ωであることの、何がいけないんだろう。
震える手を崎田に握ってもらいたいと思いながら、萩山は自室のドアノブをつかんだ。
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