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第17話

 夜風に当たりながら街灯もまばらな道を二人で歩く。  話している最中に時折街灯に照らされる崎田の横顔を、萩山はちらちらと盗み見ていた。  小学校の時から綺麗な顔をしていたが、その面影を残しつつ、しっかりとした大人の男に成長している。  子供の自分は彼がいなくなることに対する悲しみを抑え込むのに必死で、どこに引っ越したのか聞けずに終わったが、おそらく都会で色々な経験を積んで戻ってきたのだろうと確信する程度には彼は萩山から見て、かなり垢抜けていた。 「何見てるの?俺の顔になんか付いてる?」  目を細めた崎田を、ちょうど街灯が照らし出す。その美しさとある種の神聖さに目が眩みそうになりながらも、萩山は彼の質問に答えた。 「いや、さ。αとかそういうの抜きで、崎田はすごくかっこよくてお洒落で、でも優しいのは変わらなくてさ。ずっとこの街で生活していた俺とは生きる世界が違うなーってちょっと思ってた」  それを聞いた崎田は、どことなく怒りに近い表情を瞬間的に表したが、秒針がひとつ進んだ頃には暗い笑みをたたえていた。 「萩山はさ。αでかっこいい俺が好きなの」 「え?」 「……いや、なんでもない。忘れて」 「っ……崎田は、崎田だろ」 「萩山……うん、ありがとな」  夜の闇の中でいっそう黒く見えていた瞳が、輝きを取り戻す。  その後は何でもない会話をしながら歩いていると、比較的新しいが雰囲気のある建物が二人の視界に入った。 「へえ。こんなとこ出来たんだ。昔は畑かなんかじゃなかったか?ここ」 「五年ぐらい前かな、美味しいから絶対に来てほしくて」  がららと音を立てながら引き戸を動かすと、あたたかな光と美味しそうな香りが漂ってくる。  奥にある二人掛けのテーブル席に座ると、学生らしい女の子がお冷やとおしぼりを置きに来た。  その間にも彼女はちらちらと崎田の方を眺めており、やっぱり俺の贔屓目じゃなく崎田は目立つしかっこいいよなあ、と萩山は思いながらテーブルの隅に立てかけてあるメニュー表を取り出した。 「崎田、取り敢えずビールでいいか?」 「うん。俺これ食べてみたいな」  指さされた先のメニューが萩山も好きなものだったので、驚きつつも平静を保ち、口を開く。 「俺も食べたいの決まったから、店員さん呼んでいいか?」 「いいよ」  手を挙げて先ほどの店員を呼び、萩山がオーダーしている間にも彼女は崎田を盗み見ていて、萩山は大事な大事な宝箱を無理矢理こじ開けられたような気持ちになり、胸がずきりと痛んだ。

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