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第18話

 萩山がもやもやとしている間にビールと枝豆がテーブルに置かれ、店員はまた崎田の方をちらりと見て立ち去る。 「崎田……やっぱりモテるなあ」 「ん?」 「ほら、さっきのあの子……ずっと崎田のこと見てたんだぞ」 「そうなんだ」  いやにあっさりとした返事に驚きつつも、萩山は続ける。 「え、気づいてなかったのか?」 「うん。俺は萩山を見てたからね」  頬杖をついてにこりと笑った崎田のせいで、顔まで熱くなった萩山はビールジョッキを勢いよく掴む。 「そりゃどーも。じゃ、乾杯しよ?」 「あはは!萩山との再会を祝して、かんぱーい」  ジョッキを触れ合わせると、心地のいい高い音が二人の間でかちんと鳴る。淡く勘違いしてしまっている気持ちとともに、よく冷えたビールを流し込む。しゅわしゅわとしたものが喉を通る感覚が、妙に心地よかった。  枝豆をつまみつつビールを飲み進めていると、店員が唐揚げと焼き魚を持ってくる。  両方食べてみたい、と悩んでいる崎田にじゃあ半分ずつ食べようか。と萩山が提案すると、彼はとても嬉しそうにしていたため、萩山自身まで心に温かいものが広がった。 「わ、どっちも美味しいな……これ」 「だろ?ここ、夜だけじゃなくて日替わりランチもやってるから、よかったらまた行こうよ」 「ああ、行こう」  また行こう、という言葉に快く了承の返事をしてくれた崎田がまぶしくて、思わず目を細めると、カウンター越しに崎田を見ていた店員と一瞬だけ目が合う。  先ほどのもやもやとした気持ちはとっくになくなっていて、ある種の優越感に近い感覚を覚えながら、萩山はビールをぐいと飲み干すのだった。  その後も日本酒や焼き鳥などを追加して、お互いほろ酔い程度で会計をする。崎田が自然にお金を出そうとしたが「宿代代わりだろ」と萩山は頑として受け取らなかった。  店を出ると夜風が二人を包み込み、お酒で火照った身体がゆっくりと冷やされていくような感覚に、萩山は思わず伸びをする。 「ごちそうさま。俺もここ通っちゃうかも」  お酒が入ったからか若干ご機嫌な様子の崎田に向かって頷いてから、二人は崎田のアパートまで歩を進めた。 「そういえばさ、萩山」 「うん?」 「本当に、ここから出たことないのか」 「うん。大学も家から二時間半ぐらいかけて通ってたよ」 「出たいと……思わないのか?」  質問の意図があまりわからなかった萩山が首を傾げると、悲しそうな、寂しそうな様子で崎田が笑った。  その笑顔が魚の小骨のように萩山の心に引っかかり、じくじくと痛んだ。

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