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第21話

 のぼせる前に頭と身体を洗い、湯から上がる。タオルで水滴を拭いながらも、頭の中はぐるぐると落ち着かない。  さっきのキスは、どういう意味だったのか。  ただ俺の冗談に付き合ってくれただけだったのか、それとも、もっと別の気持ちが――  答えを探そうとすればするほど、何もかもがわからなくなっていく。結局何ひとつ言葉にできないままドライヤーで髪の毛を乾かして、バスタオルを洗濯かごに投げ込んだ 。  リビングに戻ると、崎田は麦茶を用意してくれていたらしく、テーブルの上にコップが二つ置かれていた。  テレビが何気なく点いていて、この時間特有の気の抜けたバラエティの笑い声が部屋を埋めている。  端から見たらただの日常風景に見えるのに、萩山には妙に居心地が悪かった。まるで、自分だけが世界からずれているようで。 「湯加減、どうだった?」 「……ちょうどよかった」  短く答えた自分の声が、やけに遠く響いた気がした。  なんでそんなふうに普通でいられるんだよ――喉元まで出かかった言葉を飲み込んで、萩山は視線を落とす。  テーブルの上のコップの水面が、いつの間にか電球色に変えられていたシーリングライトに照らされてきらきら揺れている。  その揺れをぼんやり見つめながら、あの唇の感触をどう受け止めればいいのか、考えれば考えるほど答えは遠のいていった。 「なあ、萩山」 「ん?」 「隣、座りなよ」 「あ……うん」  少しだけずれてスペースを空けてくれた崎田の隣に座ると、彼は「俺も風呂入ってくるな」と自分の分の麦茶をぐいと飲み、流しへコップを置いてからリビングを出て行った。  扉が閉まる音がした後も、心臓はまだ落ち着かないまま胸の奥に小さなざわめきを残している。  麦茶をちびちびと飲みながら、大して興味もない番組。見続ける。今夜はきっと眠れそうにないという予感だけが、確かなものとして胸に沈んでいた。  番組と番組の間に流れる短いニュース番組が始まった頃に、崎田は戻ってきた。スウェットを着ていても何故か様になっている姿に、釣り合わないな、という気持ちが芽生えて心を灰色にした。  音も立てずにゆっくりとソファーに腰掛けた崎田が、思い出したように口を開く。 「あ、今日俺ソファーで寝るから、萩山はベッド使っていいよ」 「いや、俺がソファーで寝るよ」 「いいって。万が一また体調悪くなったら心配だから」  どこまでも自分に優しい崎田に勘違いしそうになりながらも、彼の提案を受け入れようとしたが、ふとある意見が頭に浮かぶ。 「ていうか、崎田も俺と一緒に寝ればいいじゃん」  虚を突かれた様子の崎田に向き直りながら、萩山は続ける。  「崎田と一緒なら、きっと安心して眠れるから」

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