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第31話
ドアが閉まる音が、暗い廊下に沈む。
外よりも幾分か温かい空気が肌にまとわりついて、呼吸がどこかうまくできない。
萩山は呼吸を楽にするためにワイシャツのボタンを外そうとしたが、指先が震えてうまくボタンが掴めなかった。
そんな様子を見た崎田が、無言のまま手を伸ばす。軽く触れただけで、皮膚の下がびくりと跳ねた。
触れられた場所から熱が広がっていく。何かがまた始まってしまう、そんな予感がして、萩山は息を止めた。
「無理はするなよ」
崎田の声は低く、喉の奥でかすかに揺れていた。
けれど、彼の手は止まらない。ひとつ、ふたつとボタンを外された後に、服の隙間から指先が肌をなぞる。
触れられるたびに、冷たい空気と熱の境目が曖昧になっていく。
ヒートの終わりかけだったはずの体が、再び疼きを取り戻していくのを感じて、萩山はかすかに身をよじった。
「……ごめん、また……」
「謝らなくていいから」
その一言で、萩山の中の何かがぷつりと切れた。
崎田の胸に額を押し当て、震える息を吐く。押し殺そうとしても、体の奥の熱が波のように押し寄せてくる。
理性がどこか遠くに引き離されていく感覚の中で、萩山はただ「ここにいたい」と強く思った。
指先が崎田のシャツの裾を掴む。引き寄せるようにして触れた布越しの温度に、涙が滲む。
もう、何も隠せない。何も飾れない。
息の音、鼓動の早さ、全てが崎田に伝わってしまう距離で、彼は囁く。
「また、前みたいなことして……っ」
一瞬だけ目を丸くした崎田が、額に口づけを落とす。
「わかった、しようか。シャワー……は浴びる余裕なさそうだな」
今にも崩れ落ちそうな様子の萩山を見て、再び肩に手を回した崎田は、廊下の途中にある扉を開く。
数日前は段ボールがまだ積まれていたが、それがきれいさっぱりなくなっていたそこは、前以上にベッドの存在感が際立っていた。
どぎまぎしていると、いつの間にか数日前のように体を抱えられていて驚く。
そのまま優しくベッドに寝かされた萩山の首に、またレザーの首輪がつけられる。
「これ、つけるの忘れなくてよかった」
大真面目に言う崎田に、少しだけ残念な気持ちが浮かんだ萩山だったが、その気持ちも奥から沸き上がる熱感によってかき消されていった。
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